「よほどゼロのことを信頼しているようだが、残念ながら根拠に欠けるな。今更どう足掻いたところでこ
の性能差、英雄の亡霊よ、君の決断が戦友を殺す結果となったこと、後悔するがいい」
 高笑いとともにスカリエッティがバスターの砲口を唸らせ、それが戦闘再開の合図となった。高威力の
砲火が乱発され、ゼロは応射することもままならずに撃ち負かされる。まともな撃ち合いにすらなってお
らず、ゼロが一発撃つ間に敵は十数発も撃ち込んでくる。威力も連射力も桁外れであり、射撃戦を展開す
るのは不可能に近かった。
「しかし、それなら接近戦は有利かというと……そうでもないんだな、これが!」
 ビームサーヴァーに龍炎を纏わせ、炎の刃で斬り掛かる。かつてはスカリエッティが、ゼロの振るう爆
炎の剣に敗れた。その復讐か、斬り込まれる龍炎の斬撃にゼロは防戦一方だった。スカリエッティの攻撃
は剣技の面で言えば乱雑に等しいものであったが、なにせ威力が違いすぎる。多少の雑さなど問題になる
わけがない。
「デァッ!」
 炎の刃を捌ききったゼロが、反撃に転じた。斬り込まれたゼットセイバーの一撃は、一太刀で敵を斬り
裂く鋭さを秘めている。
「熱いのは嫌いかな? なら、寒いのをプレゼントしよう」
 瞬間、ビームサーヴァーが巨大な氷に覆われた。分厚い氷の塊はゼットセイバーを受け止め、スカリエ
ッティはそのままバッドのように振り回した。氷と、それ以外のものが砕ける音。氷烈斬による打撃は、
ゼロの身体を棒きれのように弾き飛ばした。ゼロは全身が粉々になるほどの衝撃受け、地面へと倒れ伏し
た。
 生半可な魔法や武技の比ではない、これがオリジナルゼロの力か。
「先天固有技能など話にならんな。やはり本物は違う」
「チンク姉!」
 姉の評し方にセインが抗議の声を上げる。
「強さは物事決める指針となり得る。このまま戦い続ければコピーの方は……」
「違う! ゼロは、ゼロは強いからゼロなんじゃない。本物ってのは、そんなんで決まるんじゃない!」
 強い言葉で姉を否定するセインを、ナンバーズの姉妹たちが興味深げに見つめる。セインがチンクに対
し、ここまで食ってかかるのも珍しい。チンクの言っていることは確かに薄情なように聞こえるが、決し
て間違っているわけではない。むしろノーヴェなどには、セインの方がムキになっているように思えるの
だ。愛する男の敗北が、認められないようで。
「じゃあ、なにがゼロの決め手だっていうんだよ」
 好戦的な性格の持ち主であるノーヴェは、強いほうが本物であるという考えに違和感を抱いていない。
「そ、それは……」
 問い掛けに、セインはハッとしたようにエックスの方を見た。そう、先程彼はなんと言っていたか?
「心……?」
 あるいはそれが、ゼロがゼロであることを証明するものとなるのかもしれない。何故だかセインには、
そう思えた。

「これで終りだ――疾風牙!」
 ダッシュと共にビームサーヴァーを斬り上げるスカリエッティ。だが、ゼロは中空に跳ぶことでそれを
避けた。素早い反応、スカリエッティは避けられたことを意外に思いつつも、更なる追撃を仕掛けるため
ゼロへと迫る。
「龍炎刃!」
 刃に龍炎を纏わせ、中空へと逃れたゼロを斬りつけようとするが、ゼロは逆にゼットセイバーを構え直
すと、回転斬りをもって迎撃を行った。今更攻撃の体勢を解くことも出来なかったスカリエッティは、ま
ともに回転斬りを食らって地面へと落下する。
 受けたダメージはそれほどのものではなかったが、返し技を食らったという事実がスカリエッティには
衝撃的だった。オリジナルゼロの技が見切られたのか? しかし、コピーゼロには記憶が……いや、既に
戦いの中で龍炎刃は何度も使っているし、その間に見切ったということも考えられる。信じがたい話だが、
ゼロほどの手練れであれば考えられなくもない。でなければ、あるいは……
「まぐれ、というのも十分あり得ることだ。私とて無傷でゼロに勝てるとは思っていない。多少のダメー
ジなど誤差の範囲内――っ!?」
 衝撃から立ち直ろうとするスカリエッティに、ゼロが追い打ちをかけた。思考を巡らす〝天才〟に、次
なる攻撃を仕掛けたのだ。叩き込まれる斬撃を、スカリエッティは空円舞を使って避けた。ゼロが素速い
というよりは彼が隙をさらけ出しただけに過ぎないが、このままでは戦闘の主導を握られる可能性がある。
 スカリエッティはバスターを乱射して牽制するが、ゼロは激しく動き回って全弾回避してしまう。距離
が詰められ、斬撃が飛んでくる。動きが速い、どんどん速くなっている。対応できない速度ではないが、
これは一体どういうことだ。
「どうしたスカリエッティ、動きが鈍くなっているぞ?」
「馬鹿をいうな、君の運動量は大したものだが、それでもオリジナルのボディに及ぶものではない」
 斬撃と斬撃がぶつかり合い、互いの身体が大きく後退する。おかしい、先程までならパワーで劣るゼロ
が一方的に弾き飛ばされていたはずなのに、今のはほとんど互角ではないか。まさか、ゼロには自分も知
らない秘策が、瞬間的なパワーアップのようなものがあるのか? エックスはそれを理解した上で、単機
でも問題ないと判断したのか?
 こうしたスカリエッティの考えは正しい。ゼロはその身体に通常時よりも爆発的に戦闘力を飛躍させる
アルティメットモードを搭載している。オメガを圧倒したのもその力を使ってのことであり、秘策やパ
ワーアップとも言えなくはない。だが、スカリエッティは知らない。その発動条件、発動状態が、どんな
ものであるのかを。
 ゼロのボディカラーは、通常時となんら変わりがなかった。
「くそっ、私はオリジナルボディを、コピーを凌駕する技と力を持っているはずなのに、どうして」
 スカリエッティに考える間すら与えぬかのように、ゼロのバスターからフルチャージショットが放たれ
る。
「こしゃくな、天空覇!」
 ビームサーヴァーによる大振りの斬撃で、バスターショットを叩き斬る。そうだ、このように強力な技
の数々を使える自分が、最強のレプリロイドのボディを持つ自分が、あんなコピーに負けるはずが――
「確かに、オリジナルゼロのボディはオレをはるかに上回る性能を有している」
 声は、スカリエッティのすぐ下で響いた。砲撃を打ち消した僅か一瞬、その一瞬にゼロはスカリエッテ
ィの懐へと潜り込んだのだ。うわずった声を上げながらバスターを向けるスカリエッティだが、ゼロの斬
撃がそれを弾き飛ばす。
「だが、それでもお前は……」
 体勢を崩すスカリエッティに、ゼロは容赦ない二撃目を浴びせかけた。
「お前は、ゼロじゃない!」
 ゼットセイバーが直撃し、スカリエッティがいともあっさりと吹き飛ばされる。オリジナルゼロのボデ
ィを持っているのに、ゼロとの間に圧倒的な性能差があるはずなのに。
 スカリエッティは、ゼロの攻撃に叩きのめされている。
「斬り裂け!」
 刃を振り切り、ビームサーヴァーから斬撃波が放たれる。しかし、ゼロは横に数歩動くだけでこれを避
けた。動きが完全に読まれているのか。呆然とするスカリエッティに、ゼロはゆっくりと歩み寄っていく。
「どんなに強大な力を持っていようと、どれだけ凄まじい技を使えようと、お前には〝それだけ〟しかな
い」
「な、なにが言いたい……」
「スカリエッティ、お前にゼロは、伝説は背負えない」
 結局のところ、スカリエッティが苦戦している理由はそこにあった。
 オリジナルゼロのボディは最強の力を有しており、並大抵の敵であればそれこそ一撃の下に破壊する。
圧倒的すぎる力には、叩き付けるだけで敵を粉砕するパワーがある。技術を必要とせず、技巧を凝らさな
くとも確約された勝利。それをもたらすだけの強さを持っているのが、オリジナルゼロなのだ。
 実際にゼロはそのパワーに押されっぱなしであり、スカリエッティがあのまま攻撃を続けていれば、押
し切ることも出来たように見えた。
 だが、それはあくまでオリジナルゼロのボディが備える〝性能〟であって、スカリエッティ本人の強さ
ではない。
 仮にゼロが、彼よりもはるかに強い相手と戦ったことがあったら?
 スカリエッティは伝説の英雄でもなければ、破壊の救世主ですらない。オリジナルゼロの力を手に入れ
ただけの、単なる天才なのだとすれば――

 そんな相手に、ゼロが負けるはずがなかった。

「撃ち抜かれろ!」
 一度に十数発放たれるバスターショットも、ゼロは完全に見切った上で避けていく。きちんと狙点を定
めた精密連射ならまだしも、狙いも精度も考えない乱雑乱射など当たるわけがない。数を撃ち込まれれば
数発は避け損ねるかも知れないが、ほとんど避けることの出来るショットの一発や二発、ゼットセイバー
で難なく斬り飛ばすことが出来る。
 斬撃にしたところでそうだ。直撃すれば身体を斬り裂くであろう刃も、当たらなければ意味がない。ス
カリエッティにも多少は剣技の心得があるのだろうが、それにしたってゼロを凌駕するものではない。そ
れなりに重量のある高出力ビームサーヴァーがいくら強力でも、扱う者がそれに慣れていなくては、その
威力を発揮できるわけがないではないか。例えオリジナルゼロのボディがビームサーヴァーを扱えるよう
に出来ていたとしても、スカリエッティがこれを振るうのは、今日がはじめてなのだから。
「ハッキリ言うが、お前はオメガよりもはるかに弱い」
 突き立てられた言葉に、スカリエッティは身体が貫かれるのを感じた。まるで、自分自身を否定された
かのような衝撃がそこにはあった。
「奴は己の衝動のままに破壊を繰り返してはいたが、お前のようにオリジナルゼロの力に飲まれてなどい
なかった。圧倒的なパワーを制御し、自在に操れたからこそ、奴は自らを救世主と称するだけの存在にな
れた」
 破壊衝動と本能の塊のように思われていたオメガだが、彼はなにも知性が欠如した化け物というわけで
はなかった。強さだけで考えれば化け物と呼べなくもないのだろうが、彼は自身が持っている力を正確に
理解し、理解した上で手足のように扱う術を知っていた。膨大な力に溺れることもなく、逆に飲み込むほ
どの凄まじさも見せつけた。

 スカリエッティには、それがない。

 彼は自分なりにオリジナルゼロのボディを研究してきたし、だからこそオリジナルが持つ数々の技を使
うことも出来た。けれど、スカリエッティに出来たのはそこまでだった。溢れ出す力を制御しようともせ
ず、放出されるままに暴れ回るスカリエッティには、オメガほどの実力がない。攻撃力や破壊力がどれだ
け強かろうと、その強さを束ねることが出来なければ、本人の実力には結びつかないのだ。
 例えばエリオにフェイトのデバイスを持たせたとして、素養のあるエリオならそれを扱うことも不可能
ではないだろう。だが、〝使いこなす〟となればどうだろうか? フェイトと同じように、彼女の持つ力
を完璧に再現することが、果たして出来るだろうか。否、出来るわけがない。実力差、経験差、その他あ
りとあらゆる差が、それを許さない。
 スカリエッティとオメガの間にも、そうした差は存在する。ゼロが断言したように、力に振り回されて
いるだけのスカリエッティと、力を振り回していたオメガには、明確にして歴然たる差があるのだ。そし
てスカリエッティがオメガより弱い以上、ゼロは彼に負ける気がしなかった。

――更に付け加えるならもう一つ、スカリエッティがゼロに勝つことの出来ない理由が存在する

 エックスの呟きに、なのはとフェイトが僅かに視線を向ける。彼にはこうなることが判っていた。そし
て、この先がどうなるのかも。
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 スカリエッティが咆えた。目に止まらぬ速度で正面から斬り掛かるが、それでもゼロには通じない。如
何に速かろうと、それが考えもなしに斬り込まれてきた出鱈目な斬撃なら、簡単に斬り返すことが出来る。
圧倒的な性能も、破壊的な攻撃力も、それを行使するのが単なる〝天才〟では、恐怖にすら値しない。
 ゼロのチャージ斬りが、スカリエッティの身体を吹っ飛ばした。
 装甲を深々と斬り付けられ、火花を飛ばしながらスカリエッティの身体が地面へと倒れ込む。今までに
ない痛み。激痛が思考を狂わせていく。
「この、程度で!」
 地面に拳を打ち付け、裂光覇の光に包まれるスカリエッティ。見る見るうちに損傷が修復され、再生さ
れていく。荒い息を吐き出しながら、なんとか体勢を立て直して立ち上がろうとする。
「何度攻撃を受けようと、私には通じない。いくらだって修復して、みせ……!?」
 言い終える前に、スカリエッティの身体がよろめき、倒れかける。慌ててビームサーヴァーを地面に突
き立て、それを支えになんとか立っていることが出来た。
「スカリエッティの動きがおかしい?」
 損傷をすべて修復させたはずなのに、スカリエッティは全身から力が抜け落ちたように身体を震わせ、
ぐらついていた。足に力が入らず、片ひざを付く。何故、一体なにが起こったというのか。
 なのはの疑問に対し、エックスは表情を消しながら答えていく。

――ゼロのオリジナルボディは、確かに最強の力を持っている

 その力が覚醒されれば、自分ですら止められない超越者となることをエックスは知っている。

――けれど、その身体を動かすには、同じぐらい強靱な精神力が、力に溺れることのない強い心が、魂が
必要なんだ

 戦いの中でゼロが確信した事実。救世主として破壊衝動の塊であったオメガにはそれがあった。英雄で
あるゼロもまた同じ。しかし、スカリエッティには、ミッドチルダに君臨する〝偉大なる天才〟には……
 エックスの言葉を続けるように、シエルが口を開いた。その声は、悲痛に満ちている。
「あなたでは、ゼロの身体に耐えきれない。精神が持たないのよ!」
 ゼロという巨大なる器に対し、スカリエッティは一滴の水でしかなかった。水滴の一粒に器を満たす力
がないように、乾いてしまえば水そのものが消滅する。
「……黙れ」
 同族に対する同情なのか、シエルは誰よりもこの結末に嘆いていた。そしてそれが、彼女と本質を同じ
とするスカリエッティにはしっかりと伝わっていた。彼にはシエルの表情が、失敗者に向けるものだと言
うことを正確に理解していた。
 だが、理解は出来ても納得できないものが、
「あなたがどんな姿になろうと、あなたはジェイル・スカリエッティ以外の存在にはなれないのよ!」
 認められないことがある。
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 ジェイル・スカリエッティ、愚かな夢の産物として生み出され、天才として作り出された男。自らを世
界へと解き放つために創造主に叛逆し、自身の夢を叶えるべく英雄となった男。
 それなのに、世界が彼に微笑みかけることはなかった。
 彼に対して最悪の喜劇を用意して、そのすべてをあざ笑った。

 偉大なる天才はその英知を持って英雄の身体を手に入れた。しかし、天才はどこまでも天才であるが故
に、それ以外の存在になることが出来なかった。あるいは長い年月をかければ自らを変えることも可能に
なるのかも知れないが、それだけの時間がスカリエッティには存在しない。
 スカリエッティは選択を誤った。彼がもしオメガを使って、予めゼロたちを排除していれば? その上
でオメガの身体を乗っ取り、英雄として君臨していれば? おそらく、戦いの結末は違ったものになって
いただろう。スカリエッティは英雄の身体を手に入れ、最強の力を持ってゼロに逆襲しようとした。かつ
て彼を敗北させた赤き閃光の英雄を、自分自身がより強い存在となることで叩き潰そうとした。結果とし
てなにが起こったか、自らを勝利者とするために戦いを挑んだスカリエッティは、ものの見事に返り討ち
にあった。彼には信じられないことだったろう。スカリエッティという存在を捨ててまで勝利へ固執した
のに、彼はゼロを超えることが出来なかったのだ。
 裂光覇はオリジナルゼロのボディをいくらでも修復、再生することが出来る。けれど、損傷だけ直した
ところで疲労が回復するわけでもない。摩耗された神経が太くなるわけでもない。擦り切れそうな精神を
維持することなど不可能だった。
「嘘だ、こんな、こんなはずは……」
 絶望に打ちのめされるスカリエッティであるが、ゼロやシエルには別の見解もあった。そもそも、オリ
ジナルゼロのボディを動かすことが出来ただけでも奇跡に等しいことであり、乱雑ではあるにせよオリジ
ナルが持つ技を繰り出すことの出来たスカリエッティは、やはり天才の名に恥じない男なのだ。
 しかし、天才からの脱却と、英雄への進化を望んだスカリエッティにとって、そんな事実はなんの慰め
にもならない。誰よりもスカリエッティ自身が、そのことを一番理解してしまっている。
「エックスが何故オレとお前の一騎打ちに拘ったか判るか?」
 ゼロの声が、冷徹な色合いを帯びて響き渡る。シエルと違い、彼はスカリエッティに同情や憐れみを向
けていなかった。惨めな奴だとは思っていたが、それも自業自得に過ぎないと切り捨てられる。スカリエ
ッティの本質を垣間見て、共感を覚えてしまったシエルに同調することなど、ゼロには不可能だった。
 だからこそ、ゼロはエックスが敢えて口に出さなかった事実に触れた。それがなにを意味するのか、ど
のような効果を表すのか、判っていながら。
「一対多数の戦いになれば、なまじ乱戦になって負傷者が増える場合がある。だが、一対一となれば少な
くとも相打ちでない限りは犠牲が一人に収まる」
 強いられる犠牲とは、当然ゼロのことではなかった。エックスには確信があったのだ。スカリエッティ
がオリジナルゼロのボディを切り札として使用したときから、彼の勝ち目がなくなったことに。
「お前の負けだ、スカリエッティ」
 勝敗は既に決している。何度やっても、スカリエッティではゼロに勝つことが出来ないだろう。皮肉な
ことに、人間だった頃の方がまだまともな戦いになっていた。アルティメットモードを起動していなけれ
ば、ユニゾンアタックも使っていない、そんなゼロを前にして、スカリエッティ完敗したのである。
 スカリエッティは歯を噛みしめた。彼は負けたくなかった。己を捨て、最強の身体を手にいれて、その
先に待っていたのが勝負にすらならない敗北だなどということを、彼は受け入れることが出来なかったの
だ。
「私はゼロだ……伝説の英雄だ!」
 叫びながら、スカリエッティが右手を振り上げた。固めた拳を中心に爆発的なエネルギーが集まり、爆
光が輝きを増していく。
「安物のコピーに、まがい物の英雄に負けるわけがない!」
 意地があった。自分を捨て、天才を辞め、なにもかも投げ出して戦いへと挑んだスカリエッティは、こ
のまま負けるわけにはいかないのだ。勝てないにしても、負けることだけは許されない。
「この塔とともに崩れ落ちるが良い――滅閃光!!」
 地面へと叩き込まれた右の拳が、爆光を爆裂させる。破壊エネルギーが周囲に飛び散り、塔を崩壊させ
ていく。まさか、塔を破壊することで瓦礫と共にゼロを押しつぶそうというのか。
 魔導師や戦闘機人は即座に中空へ飛ぶことで難を逃れるが、中にはシエルをはじめとした飛行能力を持
たないものもいる。エックスはフィールドを張ってシエルやセイン、ルクリュといった面々を保護すると、
降下するゼロとスカリエッティへ視線を向けた。

――ゼロ、決着のときだ

 崩壊する巨塔、その瓦礫に混じってゼロは落下していた。ユニゾンをしなければ空を飛ぶことも出来な
い彼にとって、この状況は如何に落下時の衝撃を緩和するかである。百数メートルの高さに対して受け身
だけで対応できるなどとは思っていないが、条件はスカリエッティにしろ同じはずだ。
 動きが取りにくい中空でなんとか姿勢制御を行おうとするゼロであったが、彼を突き破るかのような怒
号が辺りに響き渡った。

「ゼロォォォォォォォォォオッ!!」

 瓦礫片を飛燕脚で蹴り付けながら、スカリエッティが凄まじいスピードで迫ってくる。ビームサーヴ
ァーを構えた身体は全身が光り輝いており、ゼロに僅かな焦りと動揺を与えた。まさか、この状況で斬り
込んでくるつもりか?
「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 繰り出されたチャージ斬りの斬撃を、ゼロはゼットセイバーで受けた。衝撃に空間が揺れ、落下速度が
加速する。さすがのゼロも、この速度で地面と激突すれば身体が粉砕されるほどのダメージを負うだろう。
スカリエッティもただでは済まないはずだが、彼には捨て身同然の覚悟があった。
 ゼロは左手でスカリエッティの首をつかむと、ゼロナックルの腕力を持って強引に体制を入れ替えた。
「なにぃっ!?」
 驚きに顔を歪ませるスカリエッティ。ゼロは全身全霊の力を込めて制動をかけ、それによって二人の落
下スピードは僅かではあるが減退した。これでは例えスカリエッティが再び体制を入れ替えたとしても、
ゼロを倒すだけの衝撃を与えることが出来ない。
「何故だ、英雄でもなければ正義の味方でもない、そんな半端な奴に、どうして私が阻まれなければなら
ないんだ!」
 スカリエッティには夢が、意地が、信念があった。やっとつかむことの出来た夢の一欠片、それがどう
して、こんな奴に打ち砕かれねばならないのか。
「オレは英雄じゃない。だが、オレには守りたいものがあり、信じるものがある。そのためなら、オレは
イレギュラーにだってなってやる」
 ゼロの右手に閃光が煌めき、赤き光が輝いている。スカリエッティはその鮮烈なる赤き閃光に目を奪わ
れた。

「オレの行く手を塞ぐなら、例えそれが正義であっても戦う!!」

 スカリエッティが絶叫を上げた。言葉の形にすらならなかった魂の叫びは、ほぼ同時に放たれたゼロの
一撃によって粉砕された。
 赤き閃光のアースクラッシュが、スカリエッティを庭園へと叩き込んだ。頭部に叩き込まれた拳が、ヘ
ルメットごとスカリエッティを砕き散らす。

「オレがどうしてお前の前に立ったのか、理由を知りたいなら教えてやる」

 もはや答える気力すら残ってない相手に、ゼロは答えた。シンプルで、簡潔すぎるその言葉で。

「オレはお前が、嫌いなんだ」

 ただ、それだけの話だった。

                                つづく