追撃を押しとどめる形で前進していたゼロたちは、スカリエッティがいるとされる庭園に連なる塔の一つに侵
入を開始しつつあった。ちなみにこの時点でセインは姿を消しており、自己の任務を果たすべく行動に移ってい
る。追っ手のパンテオンが現れないのはスバルとティアナがよく防いでくれているからであろうが、それもいつ
まで持つかは判らない。
塔の内部へと突入した彼らの前方に、二つの人影があった。大小綺麗に分かれた身長差は大人と子供、少女と
召喚虫の一組。ルーテシア・アルピーノとその忠実なる下僕、ガリューだった。
強い敵意の視線を向けるルーテシアは、ただ一言、
「ここから先は通さない」
とだけ言って、自身が誇る召喚虫部隊を展開した。これに反応を示したのは彼女と同年代であるキャロ・ル・
ルシエであり、飛竜フリードリヒを前面に、対決する構えを見せた。
「フェイトさん行ってください。ここは私が……」
「僕とキャロの二人で戦います」
キャロの言葉に口を挟むように、エリオも前に進み出た。キャロは驚いたような表情を見せるが、唇を軽く動
かして笑った。
「そう、私たちであの子を倒して見せます」
スバルやティアナのとき以上にフェイトは躊躇いを見せたが、感傷を憶えることは許されなかった。涙を呑ん
でフェイトは飛び出し、ゼロが無言でそれに続いた。不思議なことにルーテシアはこれを妨害しようとせず、二
人が行くのを見逃してしまった。
「どうして……?」
キャロが疑問の声を上げるが、ルーテシアの態度は素っ気なかった。
「あの二人は上にあげるようにとドクターに言われてる。それに私の狙いは、貴女……」
鋭利な刃物にも似た視線が、ルーテシアからキャロへと振り下ろされる。キャロはそれを避けようとはせず、
真っ向から相手と対峙した。両者のデバイスが光り輝き、傍らに立つエリオとガリューも構えを取った。
「シューティング・レイ!」
「トーデス・ドルヒ!」
キャロが展開した翼状のスフィアから光弾が発射され、対するルーテシアも魔力付与行った黒いダガーを射出
した。応酬された射撃戦はややキャロの方が有利であったか? キャロは光弾を直射弾に切り替え高速多弾連射
を繰り返すことで畳み掛けようとした。
「防壁展開、前面に三重、硬度は対射撃魔法用」
ルーテシアは防御魔法を使ってこれを防ぎきると、一転してキャロとの距離を詰めに掛かった。手には黒いダ
ガーが握られており、召喚士にあるまじき近接戦闘を仕掛けてきたのである。
「は、早い!」
伊達にガリューと修練を積んでいたわけではなかった。ルーテシアの格闘技能はキャロのそれを圧倒しており、
ダガーを避けたキャロは、瞬間的にルーテシアが放った指針距離からの衝撃波に吹き飛ばされてしまった。さら
に追い打ちを掛けるかのようにトーデス・ドルヒの速射が行われた。
「ホイールプロテクション!」
キャロの叫びと共に、彼女の纏う魔力が渦のように渦巻き、防壁を作り出す。黒いダガーは防壁に直撃しては
消滅し、キャロはルーテシアの攻撃を完全に防ぎきった。
この二人の戦い方には、それぞれの個性や特筆が大きく現れていた。一言で言えば鍛え方の違いであり、格闘
技能を中心に自己を鍛え上げたルーテシアとは対照的に、キャロはあくまで魔法技能を研鑽し続けた。ルーテシ
アもそれを怠っていたわけではないのだが、重点を置いた箇所の違いから必ず差は生まれる。故にルーテシアは
果敢に攻め、キャロは防御を固めた。ルーテシアは元より持久策など取るつもりはなかったが、召喚虫を使えば
楽に勝てるところを敢えて自らキャロへ挑んだところに、彼女の微妙な心理状況が見て取れる。
一方、ルーテシアの忠実な下僕にして格闘技の師でもあるガリューは、槍騎士エリオと激突していた。単純な
戦闘能力であればガリューがエリオを上回っていただろうが、エリオはあらゆる魔法を駆使し、機動力を持って
互角以上の戦闘を繰り広げていたため、容易に決着は付きそうもない。地雷王を初めとした召喚虫も魔力の底を
尽かさんばかりに火力を集中させたフリードリヒの砲火に攻勢を抑え込まれていた。
一進一退、互いの技巧の限りを尽くした攻防は、華々しいまでの若い力のきらめきに満ちていた。
巻き起こる戦いの只中で、スカリエッティは一人、シエルの元を訪れていた。庭園に軟禁中である彼女にとっ
て、その来訪はあまり快いものではなかったらしい。不快感すら滲ませた視線をスカリエッティは投げかけられ
たが、そんなものは彼にとってこなれたものであった。
「ドクター・シエル。お仲間が、ゼロが貴女を助けにやってきましたよ」
「えぇ、そうみたいですね」
軟禁されているとはいえ、鳴り響く警報音が聞こえないわけではない。それが敵の侵入を告げる部類のもので
あることは明白だったし、スカリエッティの敵はゼロ一人ではないにせよ、この状況で突入してくるのはゼロ以
外にはあり得ないのだ。
「既に私の配下と協力者が苛烈な戦闘状態にあるが、彼ならばそれをも突破して私の元に来るでしょう。となれ
ば、私も少々準備が必要でしてね」
「人質ですか? 案外、安直で姑息な真似をするんですね」
シエルは自分を人質にしてゼロに対抗するつもりなのだと考えたようだが、スカリエッティは心外そうに眉を
顰めた。そこまで短絡的な思考ではないとでも言いたげに。
「ゼロと戦うのは良いのですが、彼と戦うとなれば私もただでは済まないでしょう。だから、やり残したことを
片付けておきたいんですよ」
「やり残したこと?」
「えぇ、これですよ」
スカリエッティは小箱のようなものをシエルに投げ、思わず彼女はそれをキャッチしてしまう。小箱のような
といったが、それは正しく小箱そのものであり、内部に精密な機械が仕込まれているようだった。
「これは……?」
「自作でしてね。最近エネルギーの転移に関する研究に凝っているんですが、どうにも私は専門じゃないのか上
手くいかなくて。そこでエネルギー研究として名を馳せる貴女に、意見をお伺いしたいのですよ」
シエルの見立てでは、どうやらこれは物体の内部エネルギーの変換と転送を行う装置のようだが、確かにまだ
粗い部分が目立つ。独学でここまでやれたのは大したものであるし、スカリエッティは天才に恥じない技術を持
っているとは思うが、これでは満足に動かすことは出来ないだろう。
「私にどうしろと?」
「出来ればどこが悪いのか指摘を、可能であれば完成に手を貸して貰いたい」
気がかりがあると戦闘に集中できない、などとうそぶくスカリエッティであるが、シエルとしては言葉そのま
まに了解するわけにもいかなかった。大した機械ではないにせよ、これがどういう意味を持つのかがハッキリし
ていない。それに手を貸すというのは完全なる利敵行為であり、なんともしても避けねばならないだろう。
しかし、である。ゼロのパートナーとしてのシエルはそのように判断するのだが、科学者としての彼女にはま
た別の思いがあった。皮肉なことに、シエルは小箱を一回見ただけで、どこがどのように悪く、如何なる改良を
加えるべきなのか、一目で判別してしまったのである。そしてそれを指摘ないし、自らの手でやってしまいたい
という欲望のようなものが、確かに彼女の中にはあった。科学者の、救いがたいほどの性だった。
「お断りします。例えどんなことであっても、私は貴方に協力なんてしません」
感情をねじ伏せ、理性的な答えをシエルは述べることが出来た。スカリエッティはその答えに特に失望した風
ではなかったのだが、素直に引き下がるつもりもないようだった。それを感じ取ったのか、シエルは尚も言葉を
紡いだ。
「ドクター・スカリエッティ、私は貴方の天才性については高く評価できると考えています。けど、だからとい
って貴方のやっていることを認めるわけにはいきません」
「これは異な事を。前にも言ったでしょう? 私と貴女は同類だ。私がやってきたことと、かつて貴女がやった
こととなんの違いがあるのです? 違いがあるとすれば、貴女は成功したが、私は失敗した。それだけの違い
だ」
「いいえ、それこそ違うわ。貴方と私の求めているものには差がありすぎる。貴方が求める先に私はいないし、
私が目指す先に貴方の野望は存在しない」
言い返され、スカリエッティが僅かながら言葉に詰まったのは事実だった。シエルは少なからずスカリエッテ
ィを見透かしており、不明確ながらも核心に近いものをつかみ取りつつあった。
「私は友達が欲しかった。そして、誰かにとっての友達でありたかった。そのために私は戦い、ゼロを初めとし
た多くの仲間を得た。けど、貴方は――」
自己を優先させ続けてきたスカリエッティにとって、仲間や友達、家族といったものは存在しない。彼にいる
のは配下である作品群だけであり、ルーテシアでさえ表現上は協力者でしかないのだ。
「それは綺麗事だ。貴女が行ったのは復讐以外の何物でもない。自身を弄び、陵辱し続けた社会を壊そうとして、
実際に貴女は破壊した!」
「世界は一個人の復讐心で動くようなものじゃない! それが判らないから、私と貴方は相容れないのよ」
「玩具となっていた者の気持ちは、貴女にだって判るだろう。貴女だって考えたことはあるはずだ。自分の存在
が――」
言いかけて、スカリエッティは言葉を止めた。視線を部屋の入口に向け、釣られてシエルもそちらを向いてし
まう。
「君か……生きていたんだな」
ディエチがそこに立っていた。ビームランチャーの砲口をスカリエッティへ突き付けながら、表情は氷像のよ
うに冷たくなっている。
「一応聞いておくが、なんの真似だい?」
「ドクター、死んで貰います」
「そうか、君はこのために私の元へと戻ってきた分けか」
「貴方のために、何人もの姉妹が犠牲になった。ウーノ、トーレ、クアットロ、オットー……けじめはつけるべ
きでしょう」
真剣な表情に対して、スカリエッティは煩わしそうに頭を掻いた。彼としてみては、今大事な話の真っ最中な
のであって、ディエチの相手などしている余裕はなかった。
「まあ、いいさ。一つ聞くが、この部屋でそんなものを撃てばここにいるドクター・シエルも巻き込んでしまう。
それでも撃つのかい?」
ある意味で人質に近い意味合いを持ってしまったシエルは身を強ばらせるが、ディエチの反応は醒めきってい
た。
「構わない。その人には悪いけど、私はここでドクターを殺す」
「そうかい、そうかい。ならいいだろう。さあ、私をその大砲で吹き飛ばしたまえ」
堂々と両手を広げるスカリエッティの姿は、豪快さを通り越して不気味ですらあった。しかし、ディエチとし
ても好機を逃す手はない。この堂々たる態度こそ、あるいはこちらの攻撃を躊躇わせる策略なのかも知れないの
だから。
「ドクター……さよなら!」
ビームランチャーが発射され、スカリエッティの身体を吹き飛ばした。並のレプリロイドであれば一撃で残骸
に変えてしまうほどの砲火が、人間であるスカリエッティにぶち当たったと――
そう予想して、ディエチは見事に裏切られた。
「ぐ……ぁっ!?」
結論から言って、ディエチはビームランチャーを撃つことすら出来なかった。彼女が砲撃を行おうとした瞬間、
今まで感じたこともないほどの激痛が頭部を襲い、身体の自由を奪ったのだ。
「なに……が」
床に倒れ込み、悶え苦しむディエチに対し、スカリエッティが冷笑を投げかけた。
「驚いたかね? ディエチ、君はそれなりに頭のいい娘だと思っていたが、底はあまり深くなかったな。なにも
考えずに私のメンテナンスを受けてしまった辺り、こういう結果は想像もしていなかったんだろう?」
「まさか、あのときに」
「睡眠学習か。便利なものだね、短期間で戦士を育成することも出来れば、編み物が得意な仕立屋だって作るこ
とが出来る。戦闘学習プログラムの中に、私の対しての反抗を禁じる指令を混ぜ込むのは、わけがなかったよ」
セッテはともかくとして、ディエチが戻ってきたことはスカリエッティにとって意外なことだったのだろう。
ディエチは確かに従順な娘であったが、自分に対する忠誠心や忠義心が篤かったとは思えない。どのような意図
があるにせよ、対策を打っておくに越したことはなかった。
「さて、と。それじゃあ……」
激痛は幾分か和らいだものの、未だ荒い息を吐き続けながら床に倒れるディエチに対し、スカリエッティは馬
乗りのような形でのし掛かった。そしてものもいわず、乱暴な手つきで彼女の戦闘スーツを破り捨てた。突然の
行いに抵抗しようとしたディエチの喉を、スカリエッティが押さえつける。
「ドクター・シエルがなかなかウンと言ってくれないのでね。しばらく君で時間を潰すことにするよ」
片手で右胸を握りつぶしながら、スカリエッティは絶望に震えるディエチの顔に冷笑を叩き付けた。手を移動
させ、わざとらしく腹の辺りをさすると、ディエチは涙を流して抵抗しようとしたが、どうにもならなかった。
「ディエチ、そういえば君はまだだったな」
子種を入れたところで、長持ちするような相手ではないだろう。ならばいっそ、派手に散らしてしまうのもい
いかもしれない。白濁にまみれた汚物のような姿を、他のナンバーズに見せつけるのも面白い。それに、我なが
らではあるがディエチの身体は食欲のそそるものに思えた。
「――待って!」
目の前で陵辱劇が行われようとした寸前、シエルがそれを止めた。過去の境遇から、そして、常識的な対応と
して黙って見過ごすことが出来なかったのだ。
「この機械を改良する。だから、その子には手を出さないで」
シエルにとって、ディエチは初対面の赤の他人であった。しかも、つい先ほどまで自分ごとスカリエッティを
抹殺しようとしていた。そんな相手すらも助けようとするシエルの姿は美徳ではあるのだろうが、行き過ぎた面
があったのも否定できないだろう。
「その言葉が聞きたかった」
呟くと、スカリエッティは着ていた白衣を脱ぎ捨てた。白衣はそのまま半裸のディエチの上に覆い被さり、そ
れを見たシエルは奇妙な感覚に囚われる。あるいは自分は乗せられたのかも知れない。最初からこういう流れに
なることを判った上で、スカリエッティはわざとあのような行動に出たのではないか? 彼にあの少女を本気で
貪り食う気があったとは、どうしても思えなかった。このようなポーズを見せれば必ず自分を動かすことが出来
る、そこまで計算していたのだとすれば、偉大な天才は優れた策謀家でもあるようだ。策略にはまったとしても、
了承してしまったからにはシエルの取るべき道は一つしかなかった。名も知らぬ初見の少女を救うため、自分の
能力を出し切るしかない。見捨てるという選択肢は、シエルの中には存在しなかった。
あるいは、シエルが作業を終える前にゼロが駆けつけてくれれば……可能性は決して低くないはずだが、その
前に自分がこれを完成させてしまうことの方が早いだろう。それに、そもそも大した機械というわけではない、
はずだ。
「確かに、ゼロはすぐそこまで近づいている」
シエルの思考を読み取ったのか、スカリエッティは静かに口を開いた。時の庭園で行われていることのすべて
を、彼は把握している。
「けれど、ゼロがここまで辿り着けるかは、また別の話だ」
スカリエッティの断言だった。
敵味方問わずして、各所で戦いが巻き起こっている。なにが人々をそこまで駆り立てるのか、単純なる善悪
か? それとも意地や信念、野心や理想なのだろうか。スカリエッティには判らない。彼に言えることがあると
すれば、少なくとも彼自身の目的は、自分の夢を叶えたい、それだけのことだった。
「だから、君も自分の目的を果たすと良いさ……そこにどんな結末が、待っていようとも」
フェイト共にスカリエッティの元へ目指して進撃を続けていたゼロであるが、その前進は停止を余儀なくされ
ていた。大軍や大部隊が待ち構えていたわけではない。二人の前に立ちはだかったのはたった一人、単機だった。
「――ギンガ」
相手の名を、ゼロは小さく呟いた。まるで彼女がそこにいることを予期していたかのように、彼女がこうして
自分の前に現れることを判っていたかのように、彼の表情には迷いがなかった。フェイトはデバイスを構えて前
に出ようとするが、ゼロは無言でそれを制した。
「これがお前の答えか、ギンガ」
黒いコートをはためかせながら、布地の薄い衣服が露わになる。戦傷にまみれた身体は痛ましさよりも猛々し
さに満ちあふれていた。
「どうしてかしらね」
ゆったりとした口調で、ギンガが口を開く。
「誰に強制されたわけでもない、止めることも、投げ出すことも出来た。なのに、私は今こうしてこの場にいる
ことが当然だと思ってる」
色々よ考えなかったわけではない。例えばスカリエッティにすべての罪を押しつけて、全部なかったことにし
て仲間たちの元へ戻る。機動六課の隊員として復帰し、ゼロやスバルと共に戦う、そんな自分の姿を。
なんと虫のいい、想像しただけでもおかしさで腹がよじれそうな光景だ。
「でも、私はこの道を選択した。私は自分の持てる力、そのすべてをかけてあなたと戦いたいと思ってるのよ。
私の手で倒したいと。あなたはこんな私に失望する? 馬鹿げていると呆れ果てるのかしら」
それならそれでいい。どちらにせよ自分はゼロと戦い、これを倒す。彼と再会する前から、決めていたことな
のだから。
「お前がそう決めたのなら、オレに口を出す権利はない。だが、お前が俺の前に立ちはだかるというのなら…
…」
ゼットセイバーを引き抜きながら、ゼロの全身に闘気がみなぎっていく。プログレスからも降りて、一対一で
の勝負をしようというのか。
《待って下さい、まさかあれと戦うつもりですか?》
戦いを始めようとするゼロに、ルクリュが抗議の声を上げた。
《あんなのに構っている暇はありません。ここは二人がかりで撃破して、ドクター・シエルの身柄確保を最優先
に――》
「フェイト、先に行ってくれ」
ルクリュの抗議を無視する形で、ゼロはフェイトに言葉を投げかけた。フェイトとしては、ゼロの決断に意外
さを憶えていた。彼女はてっきり、この場に残るべきは自分だと思っていたからである。
「でも、私なんかが行っても……」
「お前だから頼むんだ。シエルのことは任せた」
お前にしか頼めない、なんという口説き文句だろうか。こういった言葉に身を滅ぼした者は幾人もいるだろう
が、当然の如くフェイトはその中の一人に加わるつもりなどなかった。それに、ゼロとギンガの間に因縁がある
ように、フェイトもまたスカリエッティとの決着を付けるべき立場にあった。
「判った……武運を祈るよ」
そう言って、フェイトは先へ急いだ。ギンガはそれに見向きもせず、ただゼロのことだけをジッと見つめてい
た。
「どうしていかなかったの? あの人は、あなたにとって大切な人なんでしょう?」
「その通りだ。しかし、今この瞬間においてはお前が優先される」
高まる魔力を機体で感じながら、ゼロは戦いの前の高揚感に包まれていく。おそらく、ギンガもまた同じよう
な気持ちなのではないか。
「全力で来て。手加減なんて、私は絶対に許さないから」
はじめからそのつもりだった。目の前にいる相手に手加減など通用しないことぐらい、ひと目見れば判ること
だ。そして、なにより……
「ギンガ、お前はオレの敵に、イレギュラーになった。オレは、ゼロはイレギュラーを全力で排除する!」
それは、異世界の英雄ゼロと、戦闘機人ギンガ・ナカジマの、最期の戦いの幕開けであった。
……救世主オメガは、まだ庭園に帰還していない。
つづく