そこは田舎である。管理世界でも発展が遅れている部類に入るだろう。
都会では見られない建物が並び、舗装されていない道が緑の耕作地の間を歪に走っていた。
住民の殆どが農作業に従事しており、若干お年寄りが目立つ。
犯罪にもテンで縁が無い損な場所だからこそ、その少女は違和感無く溶け込めた。

「キャロ~? あんたに封筒が届いているよ」

年季が入った木造の二階建ての建物。一階部分には農作業の道具や藁が詰め込まれている。
その入り口から上へと向かって声を上げるのは持ち主である老婆。

「は~い、お婆さん」

ギシギシと音を立ててボロい梯子を降りてくるのは桃色の髪の少女。
名前はキャロ。数ヶ月前にふらっと町に現れ、『空いている部屋があったら貸して欲しい』と尋ねてきたのだ。
既に夫は他界し、子供達も都会に出ていて一人暮らしだったから、老婆は簡単に頷いた。
別に部屋は余っているのだから、母屋でも良いと言ったのだが、キャロが選んだのは納屋。

「また前の人かい? 送り主の名前が無いけど……」

だからと言って付き合いが悪いわけではない。
食事は一緒にするし、忙しい時期は農作業を手伝う。少ないながらも家賃を払ってもいた。
基本的にはとてもいい子なのだが、老婆は一つだけ不思議な事があった。
それは時々送られてくる送り主が無い封筒。

「はい。またちょっと空けますけど、大丈夫ですか?」

そしてその封筒が届いた後、何処かへ行くことだ。短い時で三日、長い時には一ヶ月にわたって家を空ける。
最初の一回だけ、老婆は理由を聞いてみた。しかしキャロはそれに答えず、曖昧な笑みを浮かべるだけ。
故に彼女はそれ以上聴かなかった。人には色々あると長い人生で解っているから。

「大丈夫だよ。出来れば収穫の時期には帰ってきて欲しいけど……」

「クスッ! その頃にはたぶん……」

「それじゃ、行っておいで」

そして老婆は豊満な体でキャロの小さなソレを抱き締めた。
これが見送りの挨拶。何時も通り普通の光景。老婆はキャロを中心としたすべてに疑問を感じた事は無かった。


「フリード~出かけるよ~」

悲鳴を上げる梯子を駆け上がり、キャロは納屋の二階部分に顔を出して叫んだ。
そこには一階のような農具や藁が詰め込まれた乱雑とした空間ではない。
簡素ながらもしっかりとしたベッドやテーブルがあり、年季は代わらない床もきれいに掃除されている。
電気が通っていないので、夜に明かりを取る為のランタンが天井に吊るされている。
農具に紛れていたボロボロの縫い包みも継ぎ接ぎされて形を取り戻し、壁際に並ぶ。
古いながらもモダンテイストという言葉を用いるならば、かなり快適な空間と言えるだろう。

「キュルル~」

呼びかけに答えるのは薄いカーテンが遮っていた窓の向こう、空中から聞こえる鳥のような鳴き声。
羽音一つさせて部屋に入ってきた相棒には目も向けず、キャロは豪快に服を脱ぎ始める。
着ていた普段着、農作業にも適した着古したジーパンなどを脱ぎ、新たに纏うのはお洒落なワンピース。

「さぁ、出~かけよぉ♪」

歌いながら壁に掛けられた有名なブランドの大き目のショルダーバックを手に取る。
旅支度を詰め込むには丁度良いだろう。一番下には下着などの衣服の替えを敷き詰めて、更に……

「一切れのパ~ン♪」

テーブルの上、カゴの中から保存性を優先した硬そうなパンを無造作に鞄に放り込む。
そして同じくテーブルの上に在った柄と鞘で構成された物体。鞘を取り去ればソレは……

「ナイフ~♪」

冷たい金属光沢を示すナイフ……と言っても小型で在るが故に、少女が護身用や果物の皮剥き用に持っていても違和感は無い。
刃に欠損が無いかを確認し、丁寧に鞘に収め直してやはり鞄の中へ。
最後は……

「フリード~鞄に詰め込んでぇ~♪」

これまた手頃な所で毛づくろいをしていた相棒を鞄に押し込み、若干遅れて上がる抗議の声を黙殺。
淀み無い動きで鞄を閉めた。僅かな隙間から覗く嘴が恨めしげにパクパクしている……何か可笑しなところでも?

「しゅっぱ~つ!」

生物的な曲線を描きながら僅かに動く鞄を背負い、お気に入りの白い丸渕帽子を被って完成。
最後に雨が吹き込まないように窓を閉め、目を落とすのは先程届けられた封筒の中身。
小さな長方形の紙は次元航行船のチケットであり、記された文字は『ミッドチルダ クラナガン行き』。
これは何処にでもある少女のお出かけ準備。



そこは先の『田舎』と言う単語とは全く正反対を行く、多次元世界の中心地 ミッドチルダ クラナガン。
その中でも富と権力の象徴とも言える高層ビルの最上階。そこを満たすのは本来の雰囲気ではない。
ピリピリとした暗い緊張感、室内にいるの人影は管理局の制服、漂うのは香しい血の香り……ここは殺人現場である。


「こっちの写真は取ったか?」

「あぁ、ガイシャは解剖に回してくれ」

「攻勢、防護、特殊……魔力反応は無しだ」

事件の捜査と言うのは管理世界でも非魔法文化の世界も変わりは無い。
現場からあらゆる証拠を収集して殺害状況を推測、被害者の交友関係や殺害時間の目撃情報などと重ね合わせて、犯人を特定する。
魔法が使われようとそれは変わらない。ただ魔力の残渣の特定などが増える程度であろう。
状況を永遠に保存して置ける手段としてカメラのフラッシュが瞬く中、男性ばかりの現場に入ってくる二人の女性。


「ギンガ・ナカジマ捜査官です。遅れて申し訳ありません」

「えっとティアナ・ランスター捜査官補佐です。よろしくお願いします!!」

一人は藍色の長い髪を伸ばした女性 ギンガ・ナカジマ。
そして前者よりも若干若く、オレンジ色の髪をツインテールにした少女 ティアナ・ランスター。
どちらも管理局局員の制服に身を包んでおり、幸か不幸か名前も知れている。故に室内の局員達も驚かない。
あのJS事件で中心的な活躍をした二人だからこそであり、この場を任された理由もソコにある。

「ガイシャは動かさない方が良いですかね?」

「はい、お手間を取らせてすみません」

室内には争った形跡は無かった。しかし赤いインクをぶちまけたように染まっている。
いたって普通の調子で歩くギンガの後ろをおっかなびっくり歩くティアナ。
そんな様子からして、二人の経歴の違いが周りの誰から見ても明らかだった。

「首に裂傷が一つだけ……これが致命傷ですか?」

「はい、他に外傷はありません。動脈切断による失血死で間違いないかと」

二人が辿り着いたのは豪華なこの部屋の主……の死体のところ。
手馴れた動きで手袋を装着し、色を失った死者の首元を動かして傷を覗き込む。
キレイな傷だった。躊躇いが無いし、一度で的確に切断している。プロの仕業だと考えて間違いないだろう。
手袋越しで触れた傷口の感覚も無駄な損傷が一切無いとギンガに伝えている。
乾きかけた傷口を弄ることでぐずぐず……何とも言えない音。固まった血がパリパリ剥がれ落ちていくさま。
その様子にティアナは思わず顔を顰めて呻いた。

「うっ……」

「あっ……ゴメンなさい、ティアナ。何時もの調子でやっちゃって」

ギンガは根っからの捜査官であり、機動六課への出頭が例外的な処置だった。
もちろん様々な事件の現場に立ち会うわけで……殺人事件の担当として、死体と相対するのは珍しい事ではない。
対してティアナは救助部隊からの機動六課入り。相手はガジェットばかりで死人を見ることなど無かった。

「いえ! 無理を言って付いてきてますから、ご迷惑をかけるわけには……」

では何故そんなティアナが無理を押して殺人事件の現場に居るのか?それは彼女の長年の夢である執務官に由来する。
執務官は次元世界を股に掛けて、捜査から逮捕、起訴まで一括して行う権限を持つ職種。
知識だけではなく魔道師能力も問われ、エリートだけが選ばれる超難関。
そこに僅かでも近づく為、次の配属先が決まるまでティアナは上司である執務官に言われたのだ。

『ギンガのところでお仕事を見てきたらどうかな?』と

規模は大きく異なるが事件での捜査などを担当する捜査官は、執務官の仕事に通じる部分も多い。
故にティアナはここに居る。もちろん向上心の塊である彼女はやる気満々であり、可能な限りの予習もしてきた。
それでも初めて見た死体は余りにも鮮烈。
温かみを失った土気色の肌……服を濡らす赤黒い斑模様……死んだ魚のような濁った目……何かを掴もうと虚空でもがく手……

「私も最初の頃は全然ダメだったもの」

コレばかりは慣れるしかないとギンガは苦笑。自分の経験が妹の親友の反応の正しさを裏付けているから。
ティアナもそれに頷きかけて……

「じゃあ、他二つの遺体も見てみようか?」

「……はぁい」

……意外とギンガはスパルタだと気が付いた。


「大丈夫?」

「なんとか……」

捜査が終了したわけでは勿論無い。
視界的に惨劇の現場が入らない場所 現場の外で若干青い顔をしたティアナが長いすに腰を下ろしていた。
休憩所らしく壁際に紙コップの自販機が並んでおり、ギンガが気遣いの言葉と共に差し出したのもそこで購入したホットコーヒー。
液体がすべて血のように見えて仕方が無かったティアナだが、こんな事でめげてられない!と口に含む。

「熱っ!」

「さて、執務官希望さんに問題を出します」

「え?」

舌を襲う熱さと痛みに上げた小さな悲鳴をかき消すように、隣から掛けられるのはそんな言葉。
謎掛けのような言葉だったが『執務官になる為の問題』と理解して、ティアナは気を引き締めた。

「この事件には不自然な点が幾つか有るんだけど、それを可能な限り列挙してみて」

「不自然な点……」

言われてティアナは状況を思い返す。被害者は三人。
このビルのオーナーであり大手建設会社の社長、その秘書とボディーガードの計三人。
外傷はみんな首に裂傷が一つだけ。何処にでもあるナイフによるものと思われるが、犯人はその道のプロだということ。
しかしこれと言って不思議なところなど無いようにティアナには感じられた。

「残留魔力反応も無いし……特に不自然なところは無いと思うんですけど……」

「う~ん、スバルならその答えでも良いんだけど、優秀なティアナはそれじゃダメね」

しかし返ってきたのは残念そうな叱責の言葉。ふぅ~とため息をつくギンガを見ると本当に自分がダメな奴に思えてティアナは頭を垂れた。

「まずは……魔力反応が無いから不自然な事は無い……そう考えてはダメね?
 残留魔力反応が無い、つまり魔力を使った形跡が無いからこそ、この状態は不自然なの」

一旦区切ったギンガは首を捻りながら思案する。どのように説明するのがこの子にとって良い経験となるか……

「例えばティアナ、もし『正面からナイフを持った不審人物が近づいてきた』とするわよ?アナタなら如何する?」

「デバイスを機動して警告。警告に従わない場合は撃破し、拘束します」

「うん! 管理局員として模範的な回答ね」

素晴らしい笑顔で拍手をされると『褒められたのか?』と逆に解らなくなるティアナは首を傾げた。

「資料で見たと思うけど被害者の一人はボディーガード 魔道師よ。
 そんな人物ならば貴女の答えと同じ行動を起こすと思わない?」

「それは……そうですね」

「そうなった場合、事件現場には不自然な事があるんだけど……」

そこでティアナは再び思考の海へと潜る。ここまでヒントを出されて答えられないようでは、執務官なんて夢のまま。
自分と同じ反応 交戦して無力化を被害者の一人が選択した場合、現場が今の状態では不自然……

「そっか! 荒らされた形跡、つまり戦った跡が無いって事ですね!?」

「そういう事。そしてその不自然と関連する不思議は多いの。
 この部屋に居たのが一人ならば奇襲を受け、抵抗する暇も無く殺された可能性も考えられる。
 けどあの部屋には三人も人が居た。まぁ、三人ともガイシャな訳だけど……わかる?」

「三人居ても争った形跡が無いのは不自然……」

被害者が一人の場合、犯人が殺しのプロだと仮定すれば奇襲により、無抵抗で殺害されることは考えられる。
だが被害者の数はその三倍。逆に言えば争うことも無く被害者が殺される可能性は三分の一……いや、それ以下。

「殺害方法はみんな同じ、首元を一切り。
これはそう言う方法に詳しい知り合いに聞いたんだけど……後ろから首を締める要領でナイフを引いて切るんだって」

『どんな知り合いですか? ソレ』
なんて聞く勇気は残念ながらティアナには無かった。ギンガは気にせずに続ける。

「これは逆に言うと正面から行うのは相手の抵抗などを考えればとても難しいことになる。
 それなのに揉み合った形跡無し、一人目が殺されているうちに他の人が動いた跡も無し。
 順番的に最後の犠牲者と思われる秘書に至っては仕事机に座ったまま、目の前にある電話に触れることも無く……」

『魔法でしか出来ない』
そう言いかけて、ティアナは首を振った。残留魔力反応が無かったのは確認済みだからだらだ。
全く想像できない不思議と言うものが存在するのか……ティアナが背筋に走る冷たい感覚を覚えた時。

「在りましたよ、今回のような事例」

「え?」

数枚の紙の束を持った管理局員が二人に近づきながら事も無げに言った。
ギンガも落ち着いた様子で紙を受け取り、目を通し始めたものだから、ティアナは呆気に取られてしまう。

「そんな……」

「世界は広いわ。管理局が管理しきれないくらいにね。
公表されていない不可思議な未解決事件なんてたくさん在る……」

「確認されているだけで17件、被害者は全部で34人。
 今回のように魔道師を含む複数人が犠牲になっているケースも多いですね」

渡された資料を読みながら、ギンガは問うた。
覗き込むように見ていたティアナの目には、本日の惨状に劣らぬ現場の写真が複数映る。

「ホシの目星は?」

「依頼者など情報からフリーの殺し屋だと言う事程度しか解っていないそうです」

思わぬ不意討ちに顔を青ざめているティアナを他所に、本物の捜査官二人の会話は弾む。
色々と言葉を交えた末に結局解らない事が多すぎて、行き着くのは実に関係の無い部分。

「あ~後は誰がつけたか洒落たあだ名が一つ」


魔道師を含む多くの人間が無抵抗に首を掻き切られている様子から、捜査が進まないある世界の担当官が苛立ちと共にこう叫んだ。
『全員居眠りでもしてたんじゃねえのか?』
苛立ちの声を聴いて、聞いて彼の同僚は苦笑しながらこう返す。
『それで死んでじゃ世話無いな~』

そんな会話の果てに付いた殺し屋のあだ名は……『死に至る眠り』



穏やかなクラナガンの昼下がり、陽光の下に広げられた白のパラソルの群れ。
いわゆるオープンテラスといわれる場所で、人々は食事やお茶を楽しんでいた。

「あ~ん! う~美味しい~」

大人、もしくは親子がその利用者を占める中で、その桃色の髪の少女は目立っていた。
まずは子供が一人で食事をしていると言う事、そしてテーブルの上に並べられた料理の数々。
肉があり、魚がある。ライスの隣にはパンが並び、パスタとピザも存在する。サラダとスープとデザートが相席する。
非常にカオスな状況だが、席の主は全く持って嬉しそうであり、蠢くナイフ・フォークと飲み込み続ける口には淀みが無い。

「コレだけが楽しみです~」

フライを放り込んだ口に、すぐさまアイスを詰め込みつつ飲み干し、少女 キャロは至福の表情を浮かべる。
彼女は都会が好きではない。大きな建物が空を塞ぎ、近代的なデザインは無機質で理解できない。
キャロは田舎が好きだ。かといって……生まれ故郷ほどの辺鄙な場所は好きではない。あれは田舎ではなくて、秘境である。
都会に来るのは仕事だから仕方が無い。だからこそ他の楽しみを見つけないとやっていられない。

「フリードも美味しい?」

「キュルル~」

円形テーブルの左側の席に置かれたキャロの鞄。その隙間から伸びる嘴が器用に魚のムニエルを摘み上げ、上を向いて飲み込む。
他人が見ていたら奇異の視線は避けられない異様な光景である事は間違いない。
そんな様子を眺めつつ、楽しげに食事を続行していたキャロが、テラスの入り口で目を止めた。
テンガロンハットに薄茶色のサングラス、ド派手な色のシャツと皮のズボン、そしてサンダルと言うとんでもないカッコの男が居る。
手にジェラルミンケースを持ち、誰かを探すように辺りを見回している。
キャロは手を上げて、満面の笑みを浮かべて言う。

「お父さ~ん! こっちこっち~」

『お父さん』
仕事相手との待ち合わせをしていたはずのテラスで、そんな声をかけられた男は大いに困惑した。
彼の仕事は『運び屋』もしくは『調達屋』と呼ばれる裏の職業である。
同じく裏の仕事である殺し屋なり強盗なりが仕事で使う道具 デバイスなどを調達し、指定された場所で安全に依頼主に渡すこと。
簡単なように見えて物の移動と言うのは、人が移動するよりも難しい部分がある。
人は身分証明書の一つで簡単に信頼を得る事が出来るが、物 特にデバイスは現物を押さえられたら終わりだ。
更に言えばその仕様用途に応じたモノを、どんな場所でも即座に手に入れるのは至難の業だ。
そこで専門職に需要が生まれるのだ。殺し屋は殺しに、強盗は盗みに専念する為に、得物の確保・運搬を専門にする職業。

「おぉ~待たせて悪いな、マリア」

故に男も驚いてばかりは居られない。彼もこの道で生きているプロなのだ。
大事な受け渡しを前にして、周りから要らない注目を浴びるのは避けなければならない。
実に親しい様子で少女 キャロに向かい合う形で腰を下ろし、顔を寄せて耳元で小さく囁く。

「君みたいにカワイイ娘を持った覚えは無いんだけど?」

「こうすればどんな人物とでも怪しまれずに同じ席に座れるんです」

「ほぉ~それはいったい誰に…『運び屋ジョンさん』…なに?」

「取引を始めましょう」

この子供が自分の取引相手だというのか?
確かに長い事をやっていれば犯罪者になんて見えない奴が仕事を依頼してくる事はある。だがこの少女では余りにも……

「品は?」

「ご注文どおり」

しかし取引場所に居て取引がある事を知っている事、自分のコードネームを知っている事から、この少女が依頼人で間違いないのだろう。
散乱していた空の食器を恥に寄せ、小さなジェラルミンケースをテーブルの上に置く。
開けば動かないようにクッションで固定された黒に橙色のコアを抱いた手袋状の物体が姿を現す。

「指定されたとおり召喚・使役に特化したオリジナル・ブーストデバイス ナハティガル」

「呪文処理は?」

「インダストリアル社製統合処理システム ジェネラル」

「魔力触媒は?」

「第二十三管理外世界で採掘される魔法鉱石 ノヴァクリスタル」

「バリアジャケットは?」

「オートフィット式対衝撃・対魔法特化型タイプ黒」

「パーフェクトです」

満足そうに少女はナハティガルを装着して起動させる。軽く慣らし運転のつもりでコアが数回輝き、処理速度を告げた。
それを聞いた少女は満足げに頷き、デバイスを待機状態 味気ない黒の宝玉へと変えて、懐へ。
そして代わりに取り出されたモノこそ、オレがもっとも欲していた……

「はい、次もあったらよろしくお願いしますね!」

報酬。分厚い封筒の中身を僅かに覗く。生きていて良かったと思える至福の時。

「まいどあり~」

「それじゃ、私はコレで」

それだけ言うと少女は席を立った。大きな鞄を背負い直して、背を向けて歩き出す。
取引さえ成立すれば後はお互いが無関心・非干渉を貫くのが裏の流儀。
知られたくない事がお互いに多すぎる。それにしても……

「ど~もあの子の鞄、モゾモゾ動いているような~気になるな~」

決して金儲けのためでは無い。純粋にあの鞄の中身が気になるのだ。人間、好奇心が無ければ発展もしなかっただろう。
聞いてみたい気もしないでもない。だけどそれは裏では命取りになる故にグッと自重。
『襲った子猫が大虎だった』
そんな話が裏では腐るほどある。

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最終更新:2008年10月21日 18:39