『スターズ・ライトニング両分隊長 高町なのはとフェイト・T・ハラオウンが被弾』

その一報はホテル・アグスタ防衛戦にて、防衛戦を展開していた地上本部の陸士部隊、そして機動六課へ衝撃と共に走った。
本来ならばそのような情報は秘匿しておくべきなのだろうが、ソレが可能なのは超広域戦闘での場合のみ。
ホテル・アグスタの周囲と言う範囲の狭さ、念話を応用した高速オープン通信での迅速な指示と情報共用。
以上の条件により、その衝撃の一報はすぐさま全体に広がる事に成る。


「あのエースオブエースが撃墜!」

「おいおい! 虫は砲撃まですんのか!?」」

「まいったね、コリャ」

そんな言葉が陸士部隊の間で飛び交い、思いの丈を的確に表していた。
自分達では逆立ちしても勝てないエースオブエース達が撃墜された事は確かに衝撃だ。
だが彼らは例えランクが低かろうと、場数だけは確実にこなしてきている。
一緒に戦っていた仲間が負傷し、時には死亡するような現場に居ると言う事。
魔道師の質や装備に問題があると言われ続けている地上本部の所属となれば尚更だ。
故にこの事態にも大きな混乱は起きなかった。というよりもそんな余裕が無かった。
常に押し寄せてくる巨大な蟲の群れ。気を抜けば一瞬で防衛戦に穴が開き、突破される。
一時の気の緩みが致命的なスキとなる事を知っており、他の場所に割く精神的余裕も無い。
駒として動き、大局を見る事無く眼前に集中する姿勢が功を制した。

一方、遺失物管理部機動六課は?


混乱の極みにあった。

これは酷く当然の事と言って良い。陸士部隊との違いを考えてみればいいだろう。
一つは実戦経験の少なさ。
若手筆頭三人娘をトップに据え、多大な後ろ盾によって優秀なメンバーと充実した装備が与えられた実験部隊。
そのフォワード陣は新人ながらも、陸士では逆立ちしても勝てない才能と可能性があると言って良い。

だが所詮彼らは『新人』に過ぎない。実戦は例外を除いてこれで二回目。
しかも彼らにとっての分隊長たちは陸士部隊の認識とは異なる。なのはやフェイトは強者であるが、同時に雲の上の存在でもない。
何せ朝から晩までなのはには訓練を見てもらっているし、フェイトも暇を見つけてはソレを見に来る。
その実力は話の上で聞く以上にフォワード陣たちに刷り込まれていた。故に強く思い過ぎるのだ。

『あの人たちがやられる訳が無い』と





「なのはさんが……」

高町なのはに憧れて管理局魔道師を目指し、今は同じ職場と言う非常に嬉しい状態であるスバル・ナカジマは呆然としていた。
彼女の中でのなのはという存在は空港火災の中から助け出し、夜空を舞いながら優しく微笑む印象に代表される。
『神聖』とまでは行かないが、ソレに近い昇華された憧れを持って見つめていた存在。
それが被弾した? 飛び交う情報ではS級砲撃魔法だとか……

「そんな……」

ここで生まれるのはもう一つの想い。
『憧れのなのはさんだって被弾し、撃墜するのだ。自分なんか……何時死んでも不思議では無い』
その想いが踏み込みを僅かに鈍らせた。フロントアタッカーであるスバルが戦うのは最前線、もっとも敵に近い場所。
退く事を知らない者はもちろん生きていけないが、進むべき時に進めない者を待っているのも間違いなく死だ。

「バカッ!? スバル!」

「…ティア…っ!?」

呆然としたのは一瞬、戸惑った距離は僅かに半歩。それでも戦いの最前線は見逃してはくれない。
普通ならば回避できた攻撃、眼前を通り過ぎるはずだった巨大な節足。
スバルが親友の叫びを聴くのと、巨大なナニカに打ち付けられる衝撃は同時だった。

「グウッ!!」

頑丈な体とデバイスが自動展開した障壁によって致命傷とは成らないが、確かな衝撃がスバルを襲う。
震動で揺れた視界が一瞬で大回転。体が風を切る感覚が僅かに続き、すぐさま硬い地面に叩きつけられた。

「……不味い」

スバルは焦る。衝撃は脳を揺さ振り、気管の中の空気が無理やり搾り出されるような感覚。
ずっと立てないような衝撃では無いけど、すぐさま復帰するのは厳しい一撃。
即座に射撃での援護しながら引き摺ってでも、虫から距離を取ってくれたティアに感謝。
だけど自分がもっと前線から離れると言う事は、それだけ他の人たちに迷惑を掛けると言う事だ。

事実、スバルが抜けた事で足止めされていた巨大な蟲達の進撃が再会。
オーソドックスなミッドチルダ式魔法、つまり射撃という攻撃手段しか持たない者達は撃ちつつ下がるしかない。
それを防ぐための足元近くでの格闘戦、それが生み出す混乱が必要だったのだ。

「くそっ……」

スバルの口から珍しく汚い言葉が零れた。





スバルと同様、もしくはそれ以上に混乱の極みにいる人物が居た。
彼の名前はエリオ・モンディアル。彼は色々と人には言えない生い立ちを抱えている。
もっとも新人フォワード達は多かれ少なかれ、人には話しにくい過去を持っているが……
そんな彼にとってフェイト・T・ハラオウンは特別な人間である。命の恩人であり、自分が居られる場所を作ってくれた人。
他の人間に優しくされる事が無かった分、スバルがなのはに抱いていた感情よりも純度が高い。

エリオの世界はフェイトを中心に回っているといっても過言ではない。
管理局員になろうと考えたのは彼女の役に立ちたかったからだ。断じて管理局のためではない。
ここでも父や姉、亡き母を管理局に所属し、その正義の中で憧れとしてなのはを捉えるスバルとの差。
スバルでは言い過ぎだった「神聖」と言う単語も、エリオでは的確な表現となりうる。
そしてそんな対象が『被弾し撃墜』なんて情報が流れたらどうなるか?

「フェイトさん!!」

その答えは『動きを止める』こと。戦場でもっともやっては成らない行為。
しかもエリオのポジションはガードウィング。戦闘方法はベルカ式デバイス ストラーダを用いた高速近接戦闘。
更に戦友から与えられた部下、死霊騎士団を従える立場にあるのだ。
そんな人物が動きを止めればどうなるかなど、容易く想像できる。

「■■■■■」

呆然と動きを止めた獲物を見つけて、巨大なアリがその顎を振り上げた。
大きさと比例する巨大さと大きな餌を小さくするための鋭さを併せ持つ凶器。
『ハッ!?』と意識を取り戻した時にはもう襲い。振り下ろされた顎脚がエリオの小さな体を……

「何をボーとしてやがる!」

引き裂かなかった。一喝と共に動くのはエリオが従えていた頭部が無い動く板金鎧。
本当の主の言いたい事を瞬時に理解し、命を持たない虚像たちが一斉に動く。
数体がエリオを引き倒し、数体がアリの一撃を受け止めてバラバラに砕け散り、数体がエリオを抱えて上げて放り投げる。
見事な連携。仮の主では実現不可能なチームワークを発揮できるのは、やはり声の主が真の主、盗賊王であるが故に。

「このバカが」

「イタッ!?」

自分になにが起きたかを理解する前、ノッソリと投げ飛ばされた姿勢から上半身を起こしたエリオの頭部を襲うのは痛みだ。
目尻に滲むのは若干の涙。それだけ強烈な打撃を与えたのは小さな拳骨。
振り向けば色濃い怒りと嘲りを湛えた可憐な少女の顔……それは形容し難い違和感を振りまき、エリオの背筋に寒気が走る。

『そう言えば……もう一人?だけ、冷たい世界の中で信じようと思えた人が居た』



「ったく! 戦闘の真っ只中、しかも敵の間近で動きを止めるとは……死ぬ気か?」

その人物はフェイトとは違う。優しさよりも強さ、不の感情すら目に付く。
自分と相棒の為にならどんなモノでも見下ろして、世界だって敵にまわす人。
管理社会の闇の中で揉まれたエリオすら知らない深い闇、そんな中から這い上がってきた堂々とした王者の風格。

「貸した死霊どもまで全部壊しやがって……」

「すみません、バクラさん」

「まぁ、死んだら死霊として永遠にこき使ってやるぜ」

「……」


外見は桃色の髪の少女でしかないのだが、浮かべる表情が決してその見た目どおりの存在では無い事を如実に語る。
胸に光るのは錘をぶら下げ、中心に目玉が刻まれた三角形を抱く金の輪。
古代エジプトで作られし呪われたマジックアイテム 千年リング。そこに封じられし、盗賊の魂にして邪神の欠片。

「もう……駄目だよ、エリオ君。立ち止まっちゃ」

不意にバクラと言う人格が浮かべるには相応しくない表情、それは歳相応の少女が浮かべるに正しい表情。
バクラの宿主、邪神が見つけた光、覇道を笑って歩く伴侶、アルザスの竜召喚士。
キャロ・ル・ルシエが安堵したような怒った顔で『メッ!』と、エリオの額を人差し指でコツンと叩いた。
物理的な強い衝撃を感じたバクラの拳とは違う。同じ体が起こしたアクションとは思えない優しい一撃。
そのぶん揺らされるのは心だろう。どれだけ自分が愚かな事をしたのか?と、理屈抜きで刻み込まれる。


「でも……フェイトさんが……」

倒された数の倍は召喚される新たな異形たち、瞬く間に修復していく防衛線。
ソレと比例するように疲労の色を濃くしていく戦友を見ても、エリオは未だに一つの事が頭から離れない。
そんな彼の様子を見ることもせず、バクラは鼻で笑った。

「アイツと……フェイトと殺しあった事があるか?」

「そんなこと!」

あるはずが無い。殺し合うなんてとてもでは無いが、エリオは想像できなかった。
それがフェイトだからではなく、人と殺し合うと言う事自体が禁忌であることだから。

「オレ様たちはあるぜ? なぁ、相棒?」
『はい……とても、強かったです。負けそうでした』
「そんな最強の敵が……蟲ごときに」



悪辣な盗賊と可憐な相棒の言葉を引き継ぐのは機動六課部隊長 八神はやて。
混乱する指揮系統に入れるのは一喝。解っている、心配など必要ない。彼女たちは『最高の親友』なのだから。

「私の友達が、真のストライカー達が……」

重なる三つの声。

「「『撃墜されるはずが無い!!』」」


広がっていた煙が徐々に薄れていく空の一点を二匹の昆虫人間 ベーシックインセクト達は見つめている。
森の中に身を隠し、レーザーキャノン付きインセクトアーマーによる砲撃で、敵対する最大戦力へ一撃を加えたのだ
着弾により生じた粉塵が晴れて戦果のほどを確認したら、ホテルを包囲している味方の援護に回る。
空を飛ぶ相手を地上から落とすのは難しいが、地べたを這いずる敵を撃つのは簡単だ。
彼らの参戦により、ホテル攻防戦は一気に攻める蟲側に傾くだろう。

ゆっくりと晴れていた煙が一気に掻き消える。その様子に驚きの感情を浮かべる片方のベーシックインセクト。
彼の複眼は確かに捉えていた……己へと飛来する金色の閃光を。

「■■■!」

慌てて放たれた迎撃の砲撃。だが遅すぎる。加速が乗り切った上に、発射地点を割り出された砲撃を当てられる要素は一つも無い。
放たれたレーザー状の魔力光は何も無い宙を貫き、金色の稲妻は一直線に砲撃者へと向かう。

「プラズマ……」

「■■■!?」

慌ててアーマーのファンを回転させ魔力を再チャージした時、彼 一体のベーシックインセクトが見たのは……

「ザンバー!!」

彼が最後に見たのは……自分に光の大剣を振り下ろさんとする金髪の女性
直後、森を揺らす『一つめ』の爆音と土煙が上がる。



「□□□□」

同胞から送られてきた映像から、残されたもう一体のベーシックインセクトは状況を把握する。
ターゲットはどんな手段を用いたのか解らないが無傷、もしくは戦闘可能な状況で生存しており、同胞は倒された。
ならば自分の成すべき事は? 敵がいる地点だろう地点への砲撃? それとも撤退か?
主に確認をしようと精神リンクを開こうと触角を動かして……桃色の濁流に飲み込まれた。
上がるのは『二つめ』の爆音と土煙。


「ふぅ……危なかった。フェイトちゃん!」

二つ目の土煙のはるか頭上、先程まで煙に覆われていた空。
そこに立つのは白のバリアジャケットに身を包み、珍しい杖型カートリッジシステム搭載インテリジェントを握る女性。
桃色の濁流の放ち手にして管理局のエースオブエース 高町なのはは金色の閃光 フェイト・T・ハラオウンに念話を投げる。

「こっちも片付いたよ……はやて?」

『フェイトちゃんは今から送信する座標に急行し敵性召喚士を確保! 
なのはちゃんは防衛戦に参加し、援護砲撃をよろしく!!」

「「了解!!」」


「両分隊長は無事です! 砲撃虫二体を撃破!!」

ワッ!と上がる歓声を聴きながらも、八神はやては完全に予期していた事実に小さく頷くだけ。
彼女も他の六課のメンバーと同じく、両分隊隊長の事を知っているし信頼もしている。
だがそれにより混乱をきたすようなマネはしない。何故なら信頼の質と量が違う。
本当に信じているのならば、本当の親友であるのならば、彼女達が対処できない事態と言う事は自ずと理解できる。
はやてが知るなのはとフェイトにとって「Sランク砲撃で前後から撃ち込まれる『程度』」は問題にも成らない。

「よっしゃ! 陸士部隊の皆さん、機動六課のメンバーも……反撃開始や!!」

はやての号令に各所で「了解!」の大合唱が聞こえる。崩れかけた防衛線は瞬く間に立て直されていく。
砲撃支援としてなのはが加わった事も大きく、形勢は一気に管理局側へと傾いた。





「本当だ……」

召喚師を捕らえんと空を駆け、追い縋る巨大なハチを両断していくフェイトの無事な姿に、エリオは涙さえ浮かべて微笑んだ。
自分が知っている以上の恩人の実力、それを体で知っていたからこそ微笑み、他者を叱咤する余裕を持つ戦友。
バクラとキャロに抱いていたフェイトとは違う尊敬の念がより深くなる。

「バクラさんの言ったとおりでしたね……?」

しかし振り向いたエリオが見たのはどこか納得が行かない表情を浮かべるバクラ。
戦友の視線や勢いづく味方たちにを気にした風もなく、彼は自分の背後へと言葉を投げる。

「落ち着いて辿ってみると……どうもラインが妙じゃねえか? 敵の召喚士」

バクラだけが見る事ができる相棒の精神、今バクラが宿る体の本当の主 キャロも園視線と言葉に頷いた。

『はい……フェイトさん達が被弾した後くらいからだと思うんですけど。ちょっと雑になりましたね? 妙なジャミングも……』

「何を隠してんだ? コレだけ派手に攻城戦を展開する大出力野郎が……」

物理的にも精神的にも他の者の介入を許さない会話。周りを気にする必要が無いほどに信頼しあった関係、ソレを眩しそうに見つめる。

「チビッ子たち! サボるな!!」

「あっ! はい!!」

フォワード陣の中ではリーダー的なポジションに該当するティアナの叱責が飛ぶ。
なのはの参戦により完全な防御から攻撃へとシフトした戦況。一人でも多くの人員を駆使して押し返す必要性。
以上の事からティアナの要求は理にかなっている。故にエリオもストラーダを握りなおし、駆け出した。
後ろには心強い戦友が続くと信じていたから。


「オレ様たちは抜けるぞ」

「「はぁ?」」

しかし次に聴いたのは余りにも予想外の言葉。この状態で戦線から離れる? 意味が解らない。
管理局員として有るまじき事であり、下手をすれば懲罰モノの発言だ。

「妙な事があってな……ちっと確認してくる」

「まちなさい! そんな事が認められるわけ無いでしょ!?」

「許可なんていらねぇ。オレ様たちは…「好き勝手に生きるですよ?」…そういうこった」

「キュックル~」

もう言う事は無いと小さな背中は赤いコートを翻して走りだした。白き翼の幼竜 フリードもその後ろに続く。
と言う事で……

『キャロとバクラが堂々と敵前逃亡したそうです』




力で静止させようにもそれ自体が無駄な戦力の消費となりかねない。故にティアナは舌打ちを一つ。

「もう! 後でどんな罰があっても知らないんだから!!」

幾ら緩いといわれる六課の規則だろうと、人の命を預かる管理局の一部。
理由も告げずに敵前から逃亡するなどあってはならない。故に罰則の対象足りうる。

「アンタも付いて行きたかった? エリオ」

「……わかりません」

ティアナの指摘どおり、エリオは若干その背中を追いかけそうになった。
何故か?と聞かれたら的確な返事を返す事はできないだろう。けれど追いたくなった。
それは若輩ながらの騎士としての勘とバクラが意味の無い行動をするとは考えられないと言う思いからだろう。
しかしその一歩を踏み出せなかったのは罰則と言う存在が大きい。
エリオは自身がどれだけ責められようと気にはしないだろう。ニセモノとして蔑まれる事に比べれば大したことではない。
問題は自分の責がフェイトに及ぶこと。管理局上部に属しているといっても過言ではない恩人に迷惑をかけるわけにはいかない。
それこそがエリオがバクラたちについていくのを躊躇った最大の理由だった。

「僕は僕の役目を果たそう……」

後ろから響いてきた叱咤の声も祝福の祝詞も聴こえない。
ソレは同時に叱咤や祝福の紡ぎ手を一人ぼっちにしてしまったと言う事。
バクラとキャロは自分なんて必要ないほど強いのに、その輪の中に自分が居ないことが、エリオにとっての不満だった。




そこは暗い空間だった。かまぼこ型の空洞が広がり、水が流れる音が響く。
照明は小さな非常灯だけで、弱々しい明かりがそんな場所を進む一人の少女を僅かに照らしていた。

紫色の長い髪、人形のように動かない表情。手には黒に紫のラインが走るブーストデバイス。
彼女の名はルーテシア・アルピーノ。狂気の科学者 ジェイル・スカリエッティ製作の魔道兵器 レリックウェポン。
そして……ホテル・アグスタへと進軍していた蟲たちの主である。

「へぇ……無傷なんだ」

虫たちから送られてきた映像には元気に飛び回り、此方を追い詰める二人のエースの姿。
魔力換算Sランクの砲撃をどうやって防いだのかは解らないが、実際にこちらが追い詰められているのだから仕方が無い。
戦況は既に大勢が決しつつある。ルーテシアが『囮』として置いて来た制御用魔法陣も直ぐに発見されてしまうだろう。
でも……

「でも……もう遅い」

ルーテシアを先導していた浮遊する漆黒の球体が明滅する。普通の人間には規則的な明滅でしか無いが、彼女にとっては違う。
そこには確かに意味があり、言葉があり、感情があると知っている。故に本人すら気付かないまま微笑を浮かべていた。

「ここ?」

閉ざされた空間を満たしていた靴音が止まる。そこは今まで通ってきた道 下水道の地下トンネルと何ら違いが無いように思えた。
しかし母と呼ばれる人物と二代に渡り使える忠臣の言葉、ルーテシアは何の不満もありはしない。
それに彼女は無表情にかき消されて忘れられがちだが……『かなり大雑把な性格』である。
ちょっと位ズレても別に大丈夫だろう。『開ける穴』の数が増えたり、大きくなるだけだ。

「じゃあ……始める」

片腕を一振り、アスクレピオスの格が紫色に怪しく輝く。
暗闇の中で濃紫の線が連続して走り、地面に形作られる無数の魔法陣。
それは召喚特有の形を描き出し、これから何が起ころうとしているのかを容易く示していた。
そう、召喚だ。そしてこの場所の意味。正確に言えばルーテシアがいる下水道のトンネルとある場所の位置関係。

「条件はすべてクリアー……来て」

鳴動する魔法陣から無数の蟲、戦いは最後の最後で大どんでん返しへ……

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最終更新:2008年10月04日 22:59