ミッドチルダの大都市、魔法文明の中心地 クラナガン。
無数の高層ビルが立ち並び、キレイに舗装された道が広がり、ライフラインが完備された完成形とも言える街。
だがソコに人が住んでいる以上、どうしても「ソンナ場所」は存在する。キレイな大通りから一歩脇道に入ってみよう。
暗い通りがある。汚い建物があり、弱々しい明かりがある。非合法な店が軒先を並べている。

「ソンナ場所」

そのビルも裏路地に居を構えるだけあって、古く薄暗い印象を与える有象無象の一角。
だけどその一室だけはまた違った色を纏うことになる。まぁ、コレもこう言う場所では起こりやすい事態の一つなのだが……

「ゴフッ……」

悲鳴と呼ぶには余りにも小さく、だが余りにも凄惨な音。ボコボコと溢れかえる水音。
だけど水の色は紅いアカい赤。溢れ出る先は人間の首元。横一文字に切り裂かれた傷。
崩れ落ちる男の背後から彼の喉元を引き裂いたのは銀に光る鋭い刃。シッカリとしたグリップとそれに似合う刃を備えたダガーナイフ。
ソレを持つ黒一色に包まれた人影は、崩れ落ちる男に何の感慨も抱かず、淡々と奥の部屋へと歩を進める。

「コンコン」

軽いノック音。これまた友人の家を訪ねるような自然なノック。数秒の沈黙の後、開かれた扉。
怪訝そうな表情の中年女性が顔を覗かせる。人影はその襟元を掴んで引きずり出すと同時にナイフを腹部へと一撃。

「□□□□□!!」

「っ!? どうした!!」

ナイフを回転させて引き抜くと悲鳴、それによって生まれた驚愕の声が室内から響く。
回転させて傷口を抉った結果として生まれる多量の返り血を浴びながら、殺戮者は室内へと飛び込んだ。

「キサマ!」

奥に見えた最後の標的、白いスーツの青年が突き出した手の先に魔力反応。魔道師、しかもその収束率からしてかなりの腕利き。
だが……遅い。人影、殺戮者、殺し屋には遅すぎた。距離も既に魔法の間合いではない。
ここはもう魔法に比べれば原始的な殺傷兵器、ナイフの間合いだ。

「グッ!?」

自然な動きで殺し屋の袖口から引き抜かれたもう一本のナイフ。二人の命を奪ったナイフよりも幾分細く、シンプルな作り。
切り裂く事ではなく、投擲用に重心が先端部にあり、「突き刺さる」事に重点を置いたスローティングナイフ。
飛翔した凶器は寸分違わず、魔道師の肩に突き刺さる。もちそんそれだけでは命を奪う事は出来ない。
だが魔法を成功させる集中を途切れさせるという意味では充分。残された手に握られたナイフが容易く最後の命を刈り取った。





「あぁ……ゲンヤさん? 終わりました。三人、皆殺しです」

辺りに死体が散乱するホテルの一室。そこで黒いロングコートを筆頭とした黒尽くめの殺戮者は携帯電話を取り出して、番号をプッシュ。
慇懃無礼に高級そうなソファーの上で姿勢を崩し、足をテーブルに乗せて組んだ姿勢で、繋がった先で黒尽くめの殺し屋は言う。

『相変わらずお前さんの仕事は速くて助かるぜ、ピノッキオ。何時も通り処理するから、先に出な』

答えたのは中年の男性の声。話の内容から察するにこのような出来事は日常的に行われる慣れた行為。

「解りました」

それだけ言うと殺し屋 ピノッキオは電話を切る。余計な会話は足をつく事に成りかねない。
仕事で使ったナイフと携帯電話を黒いコートの中へと納め、彼は呟いた。

「バリアジャケット解除」

『YES』

光がピノッキオの体を包み、一瞬で弾ければ彼の服装は何処にでもいる好青年のソレ。
気だるげな表情は青年期独特の無気力感を醸し出しており、手元に収まったのは小さなナイフにも似たペンダント。
それが彼の扱う魔法の道具であり、殺しのアイテム。『カヴァリエーレ』 ナイフ形という珍しいデバイスだった。

「けど……便利なもんだ、魔法って」

魔道師資質に乏しいといわれた某管理外世界ではピノッキオを驚かせる不思議な事など多くは無かった。
まぁ不思議な事など、自分と殺し合える小さな女の子くらいなもの。
勿論彼自身も魔法に才能があるわけではない。いま行ったバリアジャケットの生成と解除、僅かな運動能力の強化が限界だった。

だが……彼の強さは魔道師としての才能ではない。単純な身体能力と適切な行動予測、そして殺しの知識に裏づけされたもの。


「……ん?」

ジャケットの内ポケットを弄っていたピノッキオはソコにお目当ての品 タバコが無い事に顔をしかめる。
何時から吸うようになったか覚えてないが、仕事のあとに一服するのはそれなりに気分が良いものだ。
思い出したように己が命を奪った死体 白いスーツの魔道師の懐へと手を入れて、引き出したタバコを咥え、火をつける。

「変わった味だな……」

煙を吐き出しながら立ち上がり、軽い足取りで扉を二つ通って廊下へ。
ピノッキオの足取りは三人を殺して、その背後には死体が転がっている事など感じさせない自然なソレ。
裏に分類される場所とは言え、廊下で歩きながらの喫煙などしているからか?

「?」

「……」

途中で擦れ違った少女に訝しげな目を向けられたこと以外、ありきたりな日常のような平静。
二階分ほど階段を下りたころには、彼も意識するレベルでは無いが、仕事を終えた安心感を覚え始めても居た。

だが……ピノッキオと「女の子」の相性は基本的に最悪なのである。


「まて!!」

「なに?」

体全体で振り返る何時もの本能を押さえ、ピノッキオは首の動きだけで背後に居るだろう、叫びの主へと視線を向ける。
一般人としての対応により、不信を感じさせない策だったのだが……叫びの主の姿からすればソレは失敗だった。
オレンジ色の髪をツインテールにしてバリアジャケットに身を包んだ少女が銃型のデバイスを向けていたのだから。

「708号室……殺ったのはアナタね!?」

「はぁ?」

疑問を確かに表情に乗せ、ピノッキオはゆっくりと振り返る。
自然な動きで尚且つ隙が無く、気取られないようにジャケットの袖中へと指が滑り込む。

「何を言っているのか解らない」

だがそのナイフが閃くのは最後の手段だ。ピノッキオとて殺しが好きな訳ではない。
余計な殺しは足がつく危険が増す事にもなる。しかし少女が如何して確信を持って彼に対峙するのか?
その理由は……

「タバコ」

「ん?」

「そのタバコ、ヘンな味でしょ? ベルカ自治領でしか売ってない珍品なの。
708号室で殺されていた私の知り合いも……ソレを吸うのよ。確認したら持っていなかったわ」

そこまで聞いてピノッキオは最良の展開を切り捨てた。

「アナタが持っているタバコの箱を調べさせてもらおうかしら? 彼の指紋がバッチリ付着している箱をね?」

冷静な状況判断、慎重にして大胆な考察。それを効果的に発言し、相手の抵抗を押さえ込む手法。
実に優秀だ。だが……『殺しの腕』はどうだろうか?

「どうぞご勝手に。急いでるんだ、早くしてくれ」

ピノッキオは右の手で懐からタバコの箱を取り出し、自分にデバイスを向ける相手へ放り投げる。
相手の突然の動きに驚き、反射的に箱を受け取ろうと彼女の視線が僅かに揺れる。しかし動いたのは視線だけ。
余りにも小さなスキ、だがそれでピノッキオには充分だった。反対側になる左の袖下から器用にナイフを引き抜く。そして予備動作は無しで投擲。

「このっ!?」

少女は回避も防御も選ばない。受けるか、弾くかしての間髪置かない射撃を選択。
ナイフだと油断? 違う、これは管理世界の魔道師ならば正解の判断。
魔力反応無しで放たれた物体では、バリアジャケットを破る事などできないからだ。
ご禁制の質量兵器ならばまだしも、手一つで放つことができるナイフ程度。先ほど放り投げたタバコ程度の価値しかない。

「え?」

だがティアナは貫き、焼くような痛みを覚える事になる。
呆然と見下ろした視線の先、バリアジャケットを貫き、太腿に突き刺さるナイフの柄。
そこから滲み出した血を見るに至り、ようやく自分に起きた事態を把握する。
だが遅い。受けてしまい、傷を負ってしまった時点で取り返しのつかない「スキ」を作っているのだ。


「誰も同じ反応だな!」

その様子にピノッキオは冷静な判断として嘲りの叫びを上げた。
確かに魔法はスゴイし、ソレを操る魔道師は厄介な敵となりうる。だが……魔道師は自分達の力、魔法を過信している。
同時に魔法を使わない技術を甘く見ている。体術、戦闘の術として身のこなしを学習しても、ソコに魔力反応が無いだけで油断する。
ナイフを遠距離から『魔力無し』で投擲したところで致命傷にはならないと『思い込んで』いるのだ。

「シッ!」

予想外の負傷に少女の気が散る一瞬の間、ピノッキオが新たなナイフを構えて走る。
彼がもつナイフは全て対魔力鉱物を用いた合金製だが、その能力は簡易な障壁やバリアジャケットを無効化する程度。
つまり本気で障壁など防御に徹されれば攻撃する事は叶わないし、距離を本当の意味で離されれば攻撃自体は不可能になってしまう。
故にピノッキオは距離を詰める。魔法が持つ優位点を数多く無効化し、一撃で必殺できる場所まで歩を進める。

痛み集中力が乱れた少女の射撃魔法など当たらない。ピノッキオは見るのではなく、射線を感じて避ける。
『先生』に教わった動きを忠実に、そして自分なりにアレンジを加えた的確な軌道。
相手に射撃する機会をなるべく与えず、もっとも早くナイフだけの間合いに入る為の動き。

「ヒュン!」

動きの収束点でナイフが閃く。響くのは小さな風を切る音だけ。輝くのは一つ筋の白銀。
それだけだ。実に小さく、実に確実な……殺しの動き。狙う先には少女の細い首があった。
だが少女も唯の少女ではない。魔道師であり、あれだけの状況推測が可能な人物。

「ダガーモード!」

銃口から飛び出したオレンジ色の魔力光が刃を形成。ナイフを受け止めて、払おうとする。
だが力をかけると同時に抜ける手ごたえ。宙を舞うピノッキオのナイフに目を奪われそうになって少女は気がつく。

「囮!?」

ピノッキオの足が少女の足元を薙いだ。可愛らしい悲鳴を上げるまもなく、背を地へと打ちつける。
息が詰まるのにもかまわず立ち上がり、再びデバイスを銃として運用。ピノッキオに標準をあわせる。
だが……ピノッキオの金髪が視界の下へと沈む。身を伏せるように射線から逃れ、沈み込んだ視線から顎へ拳……ではなく掌底で一撃。

「ドン」

鈍い衝撃音。意識を刈り取られて少女は崩れ落ちた。
一度このように対処した少女を逃がさずに放置し、後に痛い目にあったことがあるピノッキオだ。
きっちり止めを刺そうとナイフを振り上げて……





「良いんですか? 僕と直接、こんな場所で会うなんて」

「硬い事は言いっこ無しだぜ、ピノッキオ」

『高すぎる事も無く、極めて安いわけではない』
ビルの地下に居を構えるそのレストランの値段設定は大体そんな感じだ。
地球で言うところのイタリア料理風の料理はピノッキオの舌にあったが、対面している人物には不満があった。
ヨレヨレのスーツと同じく草臥れた中年男性……そんな事が問題ではなく、その中年男性の名と素性が問題だ。

「オメエさんには世話になってるからな。これくらいはな?」

屈託の無い笑みを浮かべながら、二つのグラスへとワインを注ぐ男性の名前はゲンヤ・ナカジマ。
管理局の局員であり、世に言うJS事件が起きるまでは平凡な部隊指揮官、三等陸佐に過ぎなかった人物だ。だが今は?
『表記するのが面倒なほど複雑な地位と立場』
ソレくらいがピノッキオの解る事であり、そんな状態だからこそ表には出せない厄介事や危険に常に隣り合わせ。
そしてこの世界に流れ着いた自分の面倒を見てくれた恩人でもある。

「恩は返すよ」

先生に教えられ、おじさんに実行してきた彼にとってのたった一つの行動理念、『恩返し』。


「……そう言えばあの女の子は始末しなくて良かったのかい?」

「ん? ティアナの嬢ちゃんのことか?」

運ばれてきた料理に手をつけながら、思い出したようにピノッキオは疑問を口にした。
あの仕事の後、要らない頭を利かせて追いかけてきた魔道師の少女。始末する直前でゲンヤからの連絡が来たのだ。

「本局なんだろ? 彼女も」

「彼女はスバルの親友でな? 知らない事とは言え、見殺しにしたら目覚めが悪いだろ?」

「プロならば優先順位を考えるべきだ」

人の首を掻き切るよりも手馴れない動きで、ステーキをカットしているピノッキオはタメ息を一つ。

「それにイザと言う時の為に海とのパイプも確保しておいたほうが良いからよ」

「……そっちが本音でしょ?」

現在の陸と海の関係、管理局の混乱っぷりを見ればそんな思考が浮かんでくるのもわかる。
JS事件により余りにも多くの問題点が噴出し、陸と海の関係は今までに増して険悪。
地上本部は『まともな戦力を寄越さないからこんな事になる!』と言い、
本局は『お前らが言う事を聞かないからこんな事になる!』と反論した。
だが犯罪者との取引の容疑で逮捕されたオーリス・ゲイズの裁判が進むに連れて、地上本部の余りにも苦しい状況が浮き彫りになった。
するとその僅かな戦力で地上を守り抜いてきた故 レジアス・ゲイズへの支持の声と本局への不満が噴出。
本局が主導する事後処理に不満を持っていたレジアス派と呼ばれる中堅職員が、地上本部を大量に退職して業務に滞りが出る始末。

その打開策として本局が提示してきた新たな地上本部中枢の人事案、そのトップに置かれていたのがゲンヤ・ナカジマだった。
海に理解と親交があり、同時に経歴としては根っからの陸でもあり、ある程度有能。
正に本局が求める最高の人材と言っても良い。だが如何してそんなゲンヤが本局と影ながらとは言え対立する事を望んだのか?

「せっかく新しい娘たちも含めた家族と余生を楽しもうと思ってたのによ」

この大抜擢が無ければゲンヤは長女であるギンガ・ナカジマとJS事件の遺児、戦闘機人の保護観察の任に付くはずだった。
実はゲンヤが選ばれた大きな理由として『戦闘機人という特殊な娘の境遇を利用して縛る事が可能だから』と言うものも含まれる。

「まぁ、これでギンガ達の体の事を陸で行えるようになれば御の字だ。
レジアス派もナンバーズの嬢ちゃん達が運用可能になれば汚名が晴れる事になるし、嬢ちゃん達も狭い檻から出してやれる」

だが彼とてそのまま飼い殺されるつもりは無い。
根っからの陸であり、妻が本局とのつまらない確執や戦力差の犠牲になった身としては、このまま陸を海の下におく気など無かった。
薦められる陸の改革は海との関係を対等にしていくものだと気がついた本局は焦った。
しかし表向きには『陸と海の体質・関係の改善』を掲げて任命したゲンヤを解任する事は出来ない。

故に……暗躍する。ゲンヤや地上本部の荒を探し、優秀な人材の引抜を裏では加速させ、ときに犯罪組織とすら手を組む。
暗躍してきた魔手を潰し、地上での本局の勢力を秘密裏に削いでいく。それがピノッキオに与えられた恩返しの方法だった。


「そうそう! ギンガを覚えてるか?」

「? ゲンヤさんの娘ですよね?……上の」

「おう、そのギンガだがな? お前に気があるんじゃねえか?と思ってよ」

「まさか……数回しか有った事無いのに」

メインディッシュをたべ終わり、もっぱらワインを飲む時間へと移行したテーブル。
ゲンヤのそんな言葉にも、タバコを吸いつつグラスを傾けていたピノッキオは、ヒドク詰まらなそうに返した。

「いや! お前の事は民間の情報・捜査協力者って紹介したんだがよ? 
あれからけっこう『ピーノ君、元気?』とか『今度は何時来るの?』とか聞いて来るんだ。
ギンガは同年齢だと仕事仲間に見えるのか、職場じゃ彼氏ができね。お前さんみたいに、どっか抜けている奴が母性的に気になるんじゃね~かと……」

「言っただろ? 女の子は苦手なんだ」

「ソイツは人生の半分は損してるぜ、ピノッキオ」

「忠告ありがとう。でも実体験だからさ」

最初の殺しの時、撃ち殺した少女の血飛沫と表情を今でも覚えている。
モンタルチーノに潜伏していた時も、お節介を焼いてくれた少女に正体がバレて、殺そうとした。
そして……そのモンタルチーノでやりあい、殺せなかった少女の暗殺者。後に自分を殺したあの褐色の少女。

「女の子には良い思い出が無いんだ」

「じゃあこれから作れば良いさ!」

確実に酔っていると言えなくも無い言動を繰り返すゲンヤにピノッキオはタメ息を一つ。
不意にゲンヤが楽しそうに注いでいたワイングラスに映りこむ人影にふと視線を写す。
ワイングラスに映る場所、つまりピノッキオの後ろから近づいてくる……少女。
ウェイトレスの格好をしているが左手に持ったお盆は、右手を『隠すように』組まれていて……

「ゲンヤさん伏せて!!」

「「っ!?」」

ピノッキオの反射と言っても良い叫びに、二つの方向が即座に反応した。
一つはもちろん呼びかけられたゲンヤ。すぐさまテーブルの下に転がり込む。
そしてもう一つ……ウェイトレスの少女がトレーの下に隠していたのは……拳銃。
拳銃型のデバイスではない。火薬の反動により金属の弾頭を飛ばす質量兵器だ。

「このっ!」

立ち上がりざま、ピノッキオは盛大に真白なテーブルクロスを引っ張る。
上に乗っていた食器やワイングラスを広範囲にぶちまけながら、テーブルクロスが空間を埋め尽くす。
これは目晦まし。そのスキにナイフを引き抜き布と布の僅かな隙間、そこから一瞬見えた金属の光沢へと投擲。

「キン!」

「ちっ!?」

銃を取り落としたらしい相手の顔、ようやくテーブルクロスが空中で暴れるのを止めた時、確かに見えた。
どちらも緊張を孕んだまま、視線だけが交差して……驚きの色に染まる。

「モンタルチーノの女の子……?」

ウェイトレスの服装に身を包んでいるが、間違いなかった。その女の子をピノッキオが見間違えるはずが無い。
褐色の肌に青い瞳、くすんだ金髪を長いツインテールにしている。それだけならば世界にはたくさん居るだろう。
だがその視線と身のこなし。小さな女の子の体は戦士としての理想形をなぞり、視線にははっきりとして冷静な闘争の色。

「ピノッキオ!? なんで……」

「君は本当に何時でも邪魔をする……やはりあの時殺しておくべきだった」

少女の方も相対する存在が何者であるのかを理解し、同時にどうしてこの場所に居るのか?と言う疑問を漂わせる。
だがそんな理解を得る作業をここで行うことは出来ない。今ここは確かに戦場、修羅の巷。

「やってみろ……セットアップ、アウグストゥス」

少女の手の内で光を放つのは小さなクマのお人形。
光が納まれば少女の身を包むのは不釣合いなピッチリとしたネクタイと灰色のズボン型のスーツ。
その上からはロングコートを羽織り、手に持つのは……銃剣付きショットガン。
確かに銃剣まで完備した大型銃器を携帯するのに、デバイスと言う形はナイフ以上に都合が良い。

「それと私は『モンタルチーノの女の子』じゃない」

「ん?」

「私の名前はトリエラ。あなたに一度負けたけど、貴方を殺して……もう一度倒す者だ」

どちらとも無く闘争が弾ける瞬間、ピノッキオは思う。

「アァ……本当に女の子は苦手だ」と



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最終更新:2008年06月17日 19:48