ベルカ騎士と言う言葉は魔法を使う管理世界内では有名だ。
広く解釈すればベルカ式魔法を使う魔道師を指す言葉だが、更に言えばそれらの中でも志と腕に優れた者達を指す。
汎用性に優れたミッドチルダ式に押されているが、カートリッジにより生み出される爆発力。
そして『一対一で負けは無い』と評される近接戦闘能力で、管理世界の始まりの時より名を轟かせてきた。
古代ベルカ式を扱える者こそ少ないが、現在ではミッドチルダ式との複合型、近代ベルカ式の登場により、未だに衰えを見せない。

だが……そこに近年、ほんの十年位からある言葉が加わり出した。
魔法世界を二分するミッドチルダとベルカという二つの魔法式。それに正々堂々と挑戦してきた魔法様式。
それを扱う者達はベルカ騎士に準えてこう呼ばれる。


『ブリタニア騎士』と


とある特殊な事情を持つ管理世界において、その言葉は生まれた。



某管理外世界と同じく地球と言う惑星状にその世界は展開されている。地理的にも酷似しているが、有する技術や歴史に違いがあった。
原子力が発達していない代わりに、魔法技術と科学技術の融合が著しく発達している。
だがこの世界は決して魔法だけに傾聴していた訳ではない。兵器の類は管理局で忌み嫌われている質量兵器を用いていた。
先の大混乱には加わっておらず、住民の魔道師としての才能が高くはなかったのだ。世界も安定には程遠く、国が乱立している状況。

しかしこの世界は突然管理世界の仲間入りすることになる。原因はここでのみ採掘される希少金属サクラダイト。
魔力炉に使用すれば生み出される魔力量が倍増し、伝達回路に組み込めばロスを極限まで無くす。
魔法文明にとって見れば何を差し置いても欲してしまう……例え多少の無理を通し、道理を捻じ曲げても。
管理世界に登録され、多次元との国交を持つ条件をこの世界は満たしていない。世界の安定に欠け、質量兵器も現役。

だがどうしても他の管理世界、その意向が意図せずとも反映される管理局は、この世界との国交を欲した。
正確に言えばこの世界で採掘されるサクラダイトを……だから無茶もする。
各国首脳が集まるサクラダイト分割会議に飛び入りし、多次元世界の全貌を説明した上で、全世界分のサクラダイト採掘権を要求したのだ。
この無茶な要求に各国は猛反発。特に新大陸に覇を唱える大国は武力行使も辞さずという態度。
しかしこの世界では実戦レベルには届かない魔法を使いこなし、未知の戦いをする管理局の魔道師たちに強国の軍すら敗北。
他の国々はその様子に戦慄し、管理局がサクラダイトの大産出国 日本に駐留し、採掘を監督する事を認めざるえなかった。

どの国々も呆然と佇むしかない中で、唯一違ったのは他ならぬ管理局に打ち負かされた強国であった。


以下は多次元世界間サクラダイト公平分配条約(通称エディンバラの屈辱)後に発表されたその国の皇帝による演説。

『今日は帝国臣民諸君に、屈辱的な内容を告げねばならない事を、深く詫びる。
 管理と平等を語る偽善者共がこの世界に干渉してきたのだ。我らには余る魔道の力を持って。
 その力を前にして、数多の敵を打ち倒してきた我らも打ち倒す事ならず、連中の平等などと言う悪に身を落とす事になった』

皇帝は眼前に居並ぶ貴族、軍人を前にして静かに言った。その言葉に誰もが下を向いて歯軋りをさせ、屈辱に身を震わせている。

『だが! 忘れてはならない! 我らの国是を!!』

巨体から振り下ろされた握り拳は台に皹をいれ、テレビの前にして不動を示す群集たちも一斉に皇帝に視線を向ける。

『我らは競い、争い……常に進化を続けてきた。それは誰が相手だろうが変わらない!
 相手が例え多次元世界全てであろうと、一騎当千の魔道師であろうとも!
 競い争い獲得し支配しろ! その果てに……未来がある! オールハイル・ブリタニア!!』

全国民がソレに答える。数百年培養してきた闘争の血に最大級の火種が放り込まれた瞬間だった。

「「「「「「「オールハイル・ブリタニア!オールハイル・ブリタニア!オールハイル・ブリタニア!」」」」」」」

『不平等においてこそ競争と進化が生まれる』
そんな無茶苦茶な国是を持ち、未だに絶対君主制の元に階級制度を維持し、武力による植民地化に積極的な大国、神聖ブリタニア帝国。
管理局に直接弓を引き、直接打ちのめされた唯一の国である。だが……この国は心底闘争に特化した国だった。

敗北して押し付けられた平等、これはある種の不平等。故に……ブリタニアは進化する。
僅か十年に満たない期間で完成を見た全く新しい兵器。人型魔道自在戦闘装甲騎 『ナイトメア・フレーム』
容易く表現すれば四メートル程度の人型ロボット、人が乗り込んで動かす傀儡兵。正しい魔法と科学の融合。
そしてこれを操る者を先に述べたブリタニア騎士と呼ぶ。

エナジーフューラーと呼ばれる大型の魔力充電池が主動力としており、交換が容易い。
その魔力をサクラダイトにより全身に行き渡らせ、搭乗者の魔力保有量をカバーする。
空戦魔道師のような飛行は不可能だが高速移動の他、建物にすらよじ登れるホイール「ランドスピナー」。
それを補助するワイヤー式アンカー「スラッシュハーケン」により、戦場によっては空戦魔道師を凌ぐ機動性を誇る。
使用魔力と形態を変化させる事で幻術魔法を見破り、索敵を容易にする情報収集用カメラ「ファクトスフィア」も見逃せない強み。
武装はカートリッジシステムを応用した魔力弾丸を発射する大口径アサルトライフル、対ベルカ式を念頭に置いた大型ランスなど多種多様。

だがこの兵器の真の強みは……『扱いが容易である』と言う事だ。
訓練を受けた才能ある操縦者が操れば正しく一騎当千、高ランクのベルカ騎士とも一対一を繰り広げられる。
しかし素人、それこそ一時間ほどのレクチャーを受けただけの者でも、僅かな魔力さえあれば、動かすことや武器を撃つ事だけは容易い。
つまり本当の意味で兵器なのだ。使い手を選び、魔道師としての質に影響されるデバイスとは違う。
そしてソレを扱う者は兵士であり、訓練で容易く量産する事ができる。つまり……物量を揃えることが可能なのだ。

ナイトメア・フレームの理論を築き、開発し、量産し、配備する。これにブリタニアが費やした時間は僅か五年。
そして管理局がこの世界へと介入して五年、その事件は起きた。


管理局の当世界への不法駐留、並びに悪意あるサクラダイト配分量の操作に対する報復。それを目的とした神聖ブリタニア帝国による日本及び管理局戦力への宣戦布告。後に呼んで『極東事変』。
管理局は決してこの屈辱を忘れないだろう。五年、たった五年前にコテンパンに負かした相手に打ち破られる屈辱を。
この戦争において初めてナイトメア・フレームが実戦に投入された。
その既存の陸戦兵器に無い機動性、熟練者ならば高ランク魔道師と単機で渡り合い、並みの魔道師を複数蹂躙する戦闘力。
そして何より誰もが扱える汎用性とその数を容易く揃えられる量産性。
優秀な兵器の条件を揃えた騎士の騎馬たちは、日本と管理局戦力を蹂躙し一ヶ月と持たずに日本は降伏、管理局は戦力を撤退。

管理局は多次元世界を守るというプライドを失い、日本は自由と伝統、権利と誇り、そして名前を失った。
エリア11、イレブン。それが新しい日本と日本人の名前だった。




カレンは魔道師であり、イレブンであり、貴族のご令嬢であり、テロリストである。
手には古ぼけた杖型インテリジェント・デバイスを握り、戦争によって廃墟になったビル郡 ゲットーの中を駆けていた。
その顔は命の危険に対して歪み、青ざめていた。周りで彼女と同じ様に走る仲間も同様な状態だろう。

「くそっ! ナイトメアが相手じゃ……扇さん!」

『分かってる。なんとかB1地区まで逃げて相手の足を……』

耳につけた一昔前の通信インカムから雑音と共に響く仲間の声にカレンは頷く。だがやはり遅い。
このように入り組んだ市街地戦では、空戦魔道師をも越える機動性を持つ鋼の軍馬には遠く及ばない。
背後よりランドスピナーで地面を捉えて疾走するのは、現在のブリタニア軍主力の第五世代ナイトメアフレーム サザーランド。
センサーであるファクトスフィアが点滅し、闇夜に混じる獲物を正確に捉え、手に持った大型のアサルトライフルを構える。
発射音だけで耳を打つ轟音と共に、下手な砲撃級の射撃魔法にも劣らぬ魔力弾が連射。

「クゥッ!!」

『障壁』

避けきれるような攻撃ではない事をカレンは良く知っている。サイズが大きいと言う事はそれだけで射線が広く確保されるのだ。
足を止め、デバイスに魔力を集中。唱えるのはバリアー系の障壁魔法。インテリジェント・デバイスの援護も加わり、精製された障壁。
カレンの魔道師としての才能はこの世界ではトップクラスだろう。しかし管理局を退けたブリタニア騎士には及ばない。
ナイトメアが放つ魔力弾はソレを容易く揺さ振る。ビキリと嫌な音を立てたのは障壁ではなく、彼女のデバイスだった。

「紅蓮!?」

『おさらばです、主』

主を守る障壁の維持に無理な魔力を出力したせいでボディに皹が入り……

「ダメェ!!」

『ご武運を』

バリンッ

自分の手の内で砕け散る相棒にカレンは悲痛な叫ぶ。管理局の統治世代に普及した本格的な魔道技術の遺産がまた一つ命を散らした。



デバイスを砕かれ、足を止めてしまった人間がナイトメアから逃げる術などありはしない。

「てこずらせたな、テロリストが!」

侮蔑の言葉と共に突きつけられた銃口、彼女らしくもなく死を覚悟した瞬間……それは来た。
空から降り注ぐ桜色の大砲撃。降り注いだ魔力の柱は獲物に気を取られて足を止めていたナイトメアを粉砕する。

「なっ……」

「怪我は無いかな? 大丈夫?」

カレンはその光景を一生忘れないだろう。後に巡り合う黒き仮面の策略家と同様に、彼女の心をその声の主は離さない。
ゆっくりと降りてくるのは茶色い髪をツインテールにし、白いバリアジャケットに身を包んだ女性。
手には空の薬莢を吐き出すインテリジェント・デバイス。燃え上がる残骸を背にして、その女性は微笑んでいた。
呆然としたまま差し出された手を取り立ち上がった瞬間、カレンは再び現れたナイトメアに備えて構えようとした。

「管理局の魔道師だな!?」

サザーランドからスピーカーに乗せて届いた声に女性の正体に一歩近づき、更に確信に至る。
突然銃を構えていたはずの敵機が崩れ落ちたのだ。見ればその腹に穴が開いている。

「抜き打ちでこの威力……」

まるでガンマンの決闘よろしく、振り向き様に一撃を加えたのだ。
サクラダイトが伝える魔力で、かなりの防御を誇るはずのナイトメアの装甲を容易く打ち抜く砲撃魔法。

「管理局の白い悪魔」

「ニャッハッハ、『なのはさん』で良いよ。みんなそう呼ぶから」

「あっ! すみません!!」

管理局の白い悪魔、高町なのは教導官。管理外世界の出身ながら、数多の事件を解決した空のエースオブエース。
そんな人物がどうしてこんな場所に?

「今日からイレブン抵抗勢力の皆さんに魔法を教える事になりました。よろしくね」

「えぇ!?」




「ダールトン、どうした! 合流地点はそこではないぞ!?」

「申し訳ありません、姫様。少々懐かしい相手に会ってしまいましてな」

アンドレアス・ダールトン将軍は、愛機たるナイトメア・フレーム グロースターのコクピットから砂煙の向こうを睨みつけ、主の叱責に似た問いに答えた。
同時に申し訳なく思う。使えるべき主 コーネリア第二皇女の作戦遂行に参加できない事を。そして同時に嬉しく思う。
数年来の強敵との再会を。

「その懐かしい相手、厄介なのか? ならば迎えをやろう」

「それには及びません。並みの騎士では足手まといです」

例え不出来な部下でも足手まといとは行かないのだが、ダールトンは増援を拒否。一対一でやりあいたかったのだ。

「そうか……遅くはなるなよ。ユフィが心配する」

「イエス ユア・ハイネス」

通信は途切れ、ダールトンは精神をコクピットのディスプレイに集中する。
砂嵐の向こう、現れたのは白いコートを着て黒い杖を持った金髪の女性。それを確認してダールトンはスピーカーと外部集音装置を起動。
この二つを合わせて使う事により無線を持っていない人間とも会話が可能になる。勿論、距離的制限はあるが今の二人の位置ならば充分だ。

「懐かしい顔だ……七年ぶりになるか? 大きくなったな~フェイト君」

ダールトンは映像を調整し、対象人物の細部を観察。自分が見知った七年前の情報と比較して同一人物である事を再確認。
しかし年月と言うのは恐ろしいモノで、当時は小さな少女だったこの人物も今では立派な女性だ。
フェイト・T・ハラオウン執務官。金色の閃光と呼ばれる凄腕執務官にして、かのハラオウン家の秘蔵っ子。
彼女は七年前の戦争に特別援護として参加していた。

「えぇ、最後に会ったのはシンジュク攻防戦。それはそうと……資料で確認しました。
老けましたね? ダールトン卿」

「ハッハッハ! もうスッカリ老兵だよ。そろそろ引退したいのだが……」

「それは良かったです。今日で貴方は引退ですから」

片や鋼の騎士に乗る巨体の中年男性、片やその身を外に晒す二十代前後の女性。
対峙するにはいろいろと問題がありそうな構図だが、本人達はいたって真面目だ。そしてこの構図は七年ぶり。
最後の戦い、陥落寸前の日本をバックにしてぶつかり合った。

「大きくなったのは身長だけではなく……態度も大きくなったな。
どれ、見せてもらおうか? この傷のお礼も含めてな……」

「七年前の私だと思ったら痛い目じゃすみませんよ。貴方に付けられた傷のお返し……ここで!」

「ふんっ! それは此方としても同じだ。あの時のボロボロなグラスゴーと比べるべきではないぞ。
 この姫様直属親衛隊にのみ配備されているグロースターを!!」

ダールトンは顔を真横に走る傷を、フェイトはバリアジャケットの上から鎖骨の下辺りを、それぞれ指でなぞる。
同時にお互いに武器を構え直した。フェイトの持つデバイス バルディッシュ・アサルトから鎌状の光の刃が飛び出す。
ダールトンが操るグロースターは金色の突撃槍を刺突の構え。

「はぁ!!」

「おぉ!!」

どちらとも無く二つの大きさが異なる影が駆け出す。
フェイトは魔力の力でコートをたなびかせ、グロースターはランドスピナーの加速でマントが舞う。

そして……激突。




「こんな無茶な支援できるか~!!」

「ですよ~!!」

サクラダイトを採掘する為のプラントとしてその姿を歪に変えた富士山の一角。
そこで独特な訛りの少女と人形サイズの少女が提出された書類をひっくり返した。
正面で書類の雨を受けるのは禿げ上がった頭に皺が無数に走る老人。

「しかしだな、コノくらいせんことには……」

「やかましい、古狸! おおかたワガママ姫の『ゼロ様~』コールにやれたんやろが!」

「黙れ、この子狸めが! 大体もっと管理局がしっかりしていれば……」

「ソレを持ち出すんか!? 表に出ろや~」

「ボッコボッコにしてやんよ~です!」

タヌキ大決戦+1である。


以上……ネタと精神力が切れた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年08月20日 11:38