魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第三話

  • 月村家

突然であるが、月村家に一人の庭師が現れた。
彼が操る刈り込みハサミは瞬く間に不規則に生えた小枝を平らにし、
彼が操る手バサミは、木から余計な枝を間引きながらも、木が持つ美しさを落とす事無く自然に生かし続け、
彼が振るう貝殻虫用ブラシは瞬く間に枝についた貝殻虫を払い落とす。
その仕事ぶりは素早く、そして繊細にして大胆。彼の手に掛かった草木は生き生きと光合成を行い、
彼の手に掛かった花は、感謝を表すようにその美しさを一層引き立てる。
「♪~~~~♪~~~」
今は花壇に咲き乱れるパンジーに水を与えているその人物こそ、月村家に突如現れた鋼の庭師

名を『月村家の庭師・ガンダム』という。

決して『ラクロアの騎士・ガンダム』ではない。『月村家の庭師・ガンダム』である。
確認のためにもう一度言おう。何?行稼ぎ?シツレイナ。『ラクロアの騎士・ガンダム』ではない。『月村家の庭師・ガンダム』である。
念には念を、もう一度・・・何?これ以上小賢しい真似をするともう読まない?はははははは・・・ゴメンなさいorz
兎にも角にも、彼の仕事っぷりは本物であり、月村家のメイド長でもあり、園芸に関しては少しうるさいノエルにも

               「・・・・・・見事です・・・・・・・」

と、言わせるほどのもであった。
そもそも何故『騎士』から『庭師』へとジョブチェンジしたのか?
発端はナイトガンダムの「私にも何が出来る仕事はありませんか?」発言から始まった。
彼は周囲の仲間(スダ・ドアカワールドでの)が認めるほど『ド』が付く真面目人間基、真面目MSである。そのためか、
何もしないで月村家に居候する事に抵抗があったため、無茶は承知で自分にも何か出来ないかと尋ねたのである。
無論忍は「そんなこと気にする必要は無い!無い!!ナッシング!!!」と言おうとし、笑顔で口を開いた。その時、

       「それでしたら、庭のお手入れの手伝いをしていただくのはどうでしょうか?」

おそらくは扉越しに聞いていたのだろう。お茶のおかわりを持って来たファリンが『これは名案!!』と
言いたげは表情で呟いた。

いきなりだが、月村家は広い。そりゃあもう広い。当然庭も広い。
庭に関しては、でかい物を測る時に要する一般的な計算方法『東京ドーム?個分』という方法を余裕で使えるほどの広さである。
その証拠に、初めて遊びに来たなのはが迷子になったり(恭也曰く、『・・・・・遭難の名違いでは?』)
つい最近訪れたナイトガンダムが笑顔で「素晴しいですね。『森』に囲まれた邸宅とは」と勘違いをするほど広い。
そのため、庭を手入れするのも一苦労所であり、ノエルとファリンの超人真っ青な働きっぷりがなければ、月村家の庭は
本当の『森』になっていたかもしれない。いや、なっていた。絶対に。
(ちなみに、忍も少しでも二人の負担を減らそうと、多数の庭師を雇った事があるのだが、二日も経たずに全員が『やってられっか』
という書置きを残して逃亡してしまうという事態になった)
そのため、ファリンとしても、『人手が増えれば助かる』という考えの基で誘ったのだ。
その誘いにナイトガンダムは快く快諾、早速ノエルから軽いレクチャーを受けた後、実戦した結果が冒頭である。
今のガンダムの装備は剣と盾、電磁スピアという通常装備ではなく、刈り込みハサミに手バサミ、貝殻虫用ブラシなどの小物が入ったベルト。

                     騎士の風格はどこへやら

だが、ジョブチェンジしたとはいえ、彼の働きっぷりは『ガンダム』の名に恥じぬ物であり、
その有能ぶりに共感した忍が『月村家専属庭師』の照合を与えるほどであった。

「・・・・・よし、次は枝の間引きをするか・・・・・」
そして今に至る。

だが、勘違いしないでいただきたい。決して彼は『騎士』の誇りを捨てたわけではない。

刈り込みハサミを肩に担ぎながら目標の木に向かうナイトガンダム。
時刻は午後2時過ぎ、日が程よく当たっているため、12月とはいえ、それ程寒さを感じない今日この頃。
時たま、放し飼いにされている猫達が足元を通り過ぎる中

       『目標視認・・・・・攻撃開始』

ふと聞こえる電子音。同時に地面から現れた二つの砲台。
それらは間髪入れずに『死ぬ事は無いが、当たれば悶絶間違いなし』なゴム弾を
視認した目標『ナイトガンダム』に向けて発射した。(まぁ、鎧を装着しているので、痛くも痒くも無いが)
本来なら当たる事間違い無しの奇襲。だが、砲台が現れた直後、ナイトガンダムはゴム弾が発射されるより早く上空へとジャンプ。
発射されたゴム弾が地面を削り取ると同時に、ナイトガンダムは上空で刈り込みハサミを振り被り、投げ放った。
勢いをつけて投げられた刈り込みハサミは横回転をしながら真っ直ぐに砲台に向かい突き刺さり、機能を停止する。
残った砲台は、直に目標を上空へと定め、砲身を上げようとうするが、
それより早く落下してきたナイトガンダムの蹴りを喰らい、残った砲台も役目を達する事無く機能を停止した。

このように、庭師の仕事を行なうと同時に、自らの訓練も怠っていない。
そもそもこの『自動追尾攻撃装置』は忍が趣味で作った月村家の防衛装置だったのだが、以前の新聞屋を追っ払って以降、
最近は出番が全く無く、作った忍本人ですら忘れかけていた。

だが、ナイトガンダムという珍脚が現れたため、久しぶりに発動。
庭を散策していた彼に問答無用に襲い掛かったが、モンスターや騎士や魔王と戦っていたナイトガンダムの前では効果が無く、
先ほどのように、難なく全機撃破。
後に事情を説明した後、忍を叱るノエルをたしなめながらも、不要であれば自身の訓練に使いたいと申し出たのだ。
その結果、役目を終えた『自動追尾攻撃装置』は『ナイトガンダム専用自動追尾攻撃訓練装置』という
長ったらしい名前と新機能を与えられ生まれ変わり、その役目を日々存分に果たしていた。

「しかし・・・住む所ばかりか、このような訓練設備を与えてくれる忍殿達には、本当に感謝の言葉も見つからない・・・・」
改めて内心で感謝をしながらも、少しでも恩を返すため仕事を再開しようとするナイトガンダム。その時
「ただいま、ガンダムさん」
ふと、後ろから聞こえた声に自然と振り向くと、そこには学校帰りなのか、制服姿でカバンを持っているこの家の住人、『月村すずか』と
「やっほ~!遊びに来たわよ~!!!」
同じく制服姿でカバンを持っているすずかの友人『アリサ・バニングス』が手を振りながら近づいてきた。

以前にも紹介したが、ナイトガンダムはMS族、ここ地球にはいない種族である。
そのため、当然目立つ存在であるため外に出ることは出来ない。本来なら月村家にいれば問題ないのだが、
さすがに屋敷の中に閉じ込めとくのは可哀想と思った忍達は作戦プランその2『俺はキカイダー作戦』を決行することにした。
これはガンダムを『忍が作ったお手伝いロボ』に仕立てることにより、周囲の目を欺かせるという手段である。
幸い忍の機械好きは周囲に知られているため、それ程怪しまれない事も利点としてあげられる。
(実際、素体が残っていたとはいえ、忍はノエルやファリンを『製作』した実績を持つ『周囲には内密だが』)

えっ?「ミッドチルダの様な科学が進んだ世界じゃないんだから、そんなプラン直に駄目になるだろ?」

確かに、ノエルとファリンは見た目から美女メイドさん・美少女メイドさんとして十分通用する。
その点、ナイトガンダムは失礼だが正に未知生物である。外見がロボットに酷似しているとはいえ、確かに無理があるようだが、
そんな読者の皆様にこの言葉を送りたい。

             『海鳴市じゃそんなの日常茶飯事だぜ!!!』

さて、話を戻しましょう。
時刻は午後3時過ぎ、遊びに来たアリサはナイトガンダムを誘い、今はすずかの部屋でTVゲームの真っ最中であった。
「だっけど、なのはも付き合い悪いわね~。まぁ、しょうがないか。なのはにも用事があるんだし・・・・そ~らいただだき!!」
「『なのは』というのは・・・・アリサ達の親友ですか?・・・・・・・あっ・・・・負けてしまった・・・・」
「『高町なのは』ちゃん。私達の大事な友達なんだ。もうアリサちゃん。ガンダムさんは初めてなんだから、もうちょっと手加減しないと」
「だめよ!甘やかしちゃ!痛い思いをすれば嫌でも強くなるわ。それとガンダム。敬語なんて使わなくていいわよ」
TV画面に映る『GAME OVER』の文字を見た後、ナイトガンダムは横で座っているアリサの横顔を見る。
「(ほんとうに・・・強い子だ・・・・・)」
心からそう思う。昨日あんな出来事があったにも関わらず、彼女はすずかから聞いた様に自然と周囲に明るさを撒いている。
決して誰にでも真似できる芸当ではあるまい。本来なら塞ぎ込んでも可笑しくは無い筈なのだから。
だか、彼女は明るい声でビシバシとすずかに指示を出したり、自分に『てれびげえむ』という遊びを教えてくれている。
その彼女の心の強さと面倒見の良さ、明るい声でハキハキと支持を出すリーダーシップさが、大人しいすずかを引き付けているのだと思う。

そんなアリサを微笑みながら見つめるすずかは、常に半歩下がり、友を見守という役割がぴったりだと思う。
出会ってからそれ程経ってはいないが『月村すずか』という子は察しがよく、気遣いが細かいため、強気なアリサを止めるのには丁度良いと思う。
それに彼女の微笑には周囲の空気を和ませる不思議な力があった。(昨日の事件でも、解決して尚皆が緊迫した表情をしていたが、彼女の
心から安心した笑みにより、周囲のピリピリした空気も自然と緩和されていった)
そんな二人が口にする『高町なのは』という子も、彼女達のような心優しい少女であると、ナイトガンダムはふと思った。
「しょうがないわね~。もっとハンデを付けてあげましょう・・・ん?どうしたのガンダム?」
自分を見つめているナイトガンダムの視線に気が付いたアリサは彼を見据え、首をかしげながら尋ねる。
「いえ・・・・なんでもありませ・・・なんでもないよ。続きをやろうか」
微笑みながら答えたナイトガンダムはコントローラーを持つ手に力をいれ、再びTV画面を見つめる。
「そう?ならいいんだけど・・・・・そういえばさ、ナイトガンダムって忍さんが作ったロボットなんだよね?」
「はい」
「・・・・・・それ、本当?」
先ほどとは違い、怖いほど冷静な声にすずかは固まり、ナイトガンダムは沈黙する。そしてゆっくりと顔をアリサの方に向けると、
目の前にはアリサの真剣な顔、そしてゆっくりと彼女の両腕がナイトガンダムの頬に触れる。そして

                 むにゅ~

伸ばすように思いっきり引っ張った。
「ほらほらほらほら~白状しなさい!!こんなにやわらかいわけないでしょ~!!!!」
「や・・・やめる・・んだ・・アリ・・ハ・・・」
「なら白状しなさり!!でなきゃもっと引っ張るわよ!!そらそらそら~!!!」

  • 数分後

「なるほどね、じゃあナイトガンダムは『スダ・ドアカワールド』って世界からきたのね」
頬を腫らしているナイトガンダムに変わり、すずかが『スダ・ドアカワールド』の事、MS族の事、事故によりこの世界に来たこと、
ロボットという事にしておけば、ある程度自由が利くから嘘を付いた事などを話した。
すずかが語った真実に、腕を組みながら『ウンウン』と頷くアリサ。
同時に彼女も自分の所にも、流れ星が落ちてきたことを話そうとしたが、
自分の所に落ちてきたのはただの石の固まり。話しても白けるだけと思い直にやめた。
「ですがアリサ、どうして私が・・その『ろぼっと』では無いと思ったんだい?」
引っ張られた頬を撫でながら、ナイトガンダムは唯一疑問に思ったことを口にする。
「それはね・・・・私にも上手く口に出来ないんだけど・・その・・・・温かみがあったから・・・・かな・・・」
「『温かみ』ですか?」
「そ、あの抱きしめられた時にね、人が持つ温かみって言うのかな・・・そんだけよ。さ、続きを始めましょ!」
そう言い、再びコントローラーを持ち、画面を見ようとするアリサ。だが、動かす首を途中で止め、再びガンダムの方を向く。
「・・・でもさ・・・・ガンダムにも・・・・家族とかが・・・・いるんじゃないの?・・・・・寂しくない」
アリサが放った言葉に真っ先に反応したのは、ナイトガンダムではなくすずかだった。
そういえばそうだ。ナイトガンダムは自分の意思に関係なくこの世界に自分と同じ種族がいない世界に来たのだ。
当然家族とも、友達とも、別れを告げずに・・・・・本当だったら錯乱しても可笑しくは無い。
そしてすずかはふと考えてみる。もし自分がナイトガンダムの立場だったらどうだったろうか・・・・・・・
「(・・・・・いやだ・・・・想像したくない・・・・・)」
正直考えるのも恐ろしい、自分だったら耐えられないだろう。
おそらくそんな気持ちをナイトガンダムは味わってる筈。それなのに、自分は住人が増えた事にただはしゃいで・・・・・・
「すずか、ありがとう」
ふと近くから聞こえた声に我に返るすずか。すぐ側には微笑んでいるナイトガンダムが立っていた。
「私のことを心配してくれたんだね。でも心配しないで、大丈夫だから」
「でも・・・・私・・・・ガンダムさんの・・・・気持ちも知らないで・・・・・勝手に喜んで・・・・・最低だよ・・・・」
俯きながら声を絞り出すすずかに、ナイトガンダムはそっと彼女の肩に手を置く。
「そんなに自分を責めないで。むしろ見ず知らずの私を保護してくれた貴方達には、とても感謝しているんだ。
正直MS族の私は『見世物』とされていても可笑しくは無いからね。そんな私を温かく迎えてくれた月村家の皆には本当に感謝してる」
安心させるように語り掛けるナイトガンダムに、すずかの顔からも自然と自己嫌悪の念が薄れていく。
「それに・・・・言いそびれたことだけど、私には昔の記憶がないんだ。だから、私に家族がいたのかも分からないし、
離れ離れになった時の辛さも分からない。だけど、私にも心強い仲間達がいた。彼らと別れたのは確かに寂しい。ですがすずか、貴方が気に病む事はないよ」
すずかに語りかけながら、サタンガンダムを倒すために共に旅をした仲間たちのことを思い出す。
だが、ナイトガンダムの心に残るのは寂しさのみであった。サタンガンダムを倒した今となっては、スダ・ドアカワールドにも平和が訪れる。
平和を脅かす敵がいなくなっただけでも、彼の心は安心感に満たされていた。
「それに、今はすずかやアリサ、忍殿達がいるから、寂しい事なんて無いよ。改めて御礼を言わせて欲しい。心配をしてくれて、ありがとう」

  • PM 19時45分

あの後、アリサに負け続けたガンダムは10回目となる再戦を希望するも、二人とも習い事の時間が来たため断念。
二人が習い事に言った後は、屋敷内に設けられた自分の部屋で地球の文化についての勉強をしていた。
「しかし『カガク』なる機械技術がスバ抜けて進んでいるにも関わらず、魔法は全く無いとは・・・・」
借りた本の中には、魔法に関する物も含まれていたが、全てが立証の無い空想物ばかりであった。
実際『スダ・ドアカワールド』にも機械技術があったが、地球と比べたら比較するのも馬鹿らしくなる程劣っていた。
だが、魔法技術に関しては使える者、使えない者がいたが、日常で使われている程一般的であった。
「おそらく、ここの人達には魔力が無いんだろう・・・それを補う意味も込めて、自然と機械技術が発展したんだろう」
夕食の時に一回だけ部屋を出たきり、部屋に篭って本を読みふけるガンダム。
聞こえてくるのは時計が刻む針の音のみ、ただ静かに夜は更けていく

                筈だった

何の前触れも無く、突然ナイトガンダムの部屋が暗い色に包まれる。
白い壁紙に囲まれた明るい部屋が、一転してどんよりとした暗い部屋へと姿を変える。
「これは・・・・封鎖結界!!?」
突然の事態に驚きづつも、彼には原因が直に分かった。
相手を発動領域内に閉じ込める結界の一種であり、『スダ・ドアカワールド』で戦ったジオンの魔道師も使っていた術。
「なぜだ・・・・・この世界には魔法は存在しない筈・・・・・いや、先ずはすすか達の安否を・・・」


  • 海鳴市上空


「・・・・・・魔力反応は・・2つ?・・・・・・・」
封鎖結界を展開したヴィータは、狙っていた高魔力を持つ獲物だけではなく、
今まで反応がなった高い魔力を持った獲物も掛かったために、ふと疑問に思う。
「・・・まぁ、良いオマケが釣れたってことだ・・・・二人合わせて、上手くすれば30ページは稼げるな・・・・」
だが、彼女のする事には変わりは無い、高い魔力を持つ二人から魔力をいただく・・・・・はやてのために。
「先ずは大物からだな。行くよ、グラーフアイゼン」『Ja wohl』
自分の相棒の返事を聞いたヴィータは、目的を遂行するために、大物「高町なのは」の元に向かう。
一つの赤い流星が、誰もいない町の上空を翔る。

  • 月村家


「やはり・・・・いないか・・・・」
リビング・キッチン・忍達の部屋(丁重に数回ノックした後入室)を確認したガンダム。
だが、彼が予想した通り、月村家には彼女達どころか普段彼方此方にいる猫すらおらず、不気味に静まり返っていた。
当初、ナイトガンダムは自分が狙われているのではないかと思った。この結界は自分の知識が正しければ
指定した人物、もしくはある条件に該当する人物を発動領域内に閉じこめる効果がある筈。
皆を残して自分がこの場にいるということは、自分を目的としているのか、もしくは自分が『ある条件に該当している』という事である。
前者の場合なら、直にでもこの場を立ち去らなければならないが、
「大きな魔力反応が・・・・・移動している・・・・・」
この封鎖結界が発動してから直に感じた大きな魔力反応。十中八九この結界を張った人物で間違いは無いのだが、
その人物は自分の所には向かわず、もう一つ、別の方向から感じる大きな魔力反応の方へと向かっていた。
「私を狙ったわけではない・・・・だが私は結果内にいる。おそらくこの結界を張った魔道師は『魔力がある者』だけを目標にしたのか。
だが、このままでは・・・・・マズイな」
結界の効果のため、外にいるすずか達には危害は及ばないとはいえ、このままにしておく訳には行かない。
せめて、この結界を張った魔術師に目的などを聞く必要がある。
「ここでジッとしていも始まらない・・・・・行こう」
既に返してもらった剣と盾、電磁スピアを装備し、ナイトガンダムは市街地方面へと向かった。


  • 数十分後

:市街地

「うっ・・・・・あ・・・・・・あ・ああ・・・・・」
封鎖結界により隔離された市街地。
そこに立ち並ぶビルのオフィス内に高町なのははいた。
だが、彼女は既に満身創痍であった。体は彼方此方が痛み、立つ事も出来ない。
自分の愛杖もボロボロであり、今は弱々しく光りを放っているだけ。

「・・・どう・・・・して・・・・」
ゆっくりと自分に近づいてくる襲撃者の少女を霞む目で見据えながら、この数十分間で起きた出来事を思い出す。
何もかもが突然だった。急に発生した封鎖結界、突然襲ってきた鉄鎚を持った女の子。
どうにか話を聞いてもらおうと言葉を投げかけるも、無視され攻められる。
おそらく、威嚇として撃ったディバインバスターが彼女の怒りに火をつけたのだろう。
あの帽子を吹き飛ばした瞬間、彼女の瞳は怒りに満ち溢れ、自分への攻撃も激しくなった。
それからは一方的だった。多少自信があった防御も簡単に打ち砕かれ、ビルの中にあるオフィスまで吹き飛ばされた。
続けて放たれた一撃で、容赦なく壁に叩きつけられ、今に至る。
バリアジャケットのおかげでダメージは抑えられたが、それでも体の彼方此方が痛み、動く事ができない。
これほどの痛みをなのはは今まで経験した事が無かった。だからこそ、自分を痛めつけた相手が近づいてくるたびに
言い様の無い恐怖感が増す。
それでも、恐怖と痛みに耐えながら、なのはは傷ついたレイジングハートを襲撃者に向けた。
「(・・・・こんなので・・・・・終わり・・・・・・やだ・・・・ユーノ君・・・クロノ君・・・・フェイトちゃん!!!)」

「(ちっ・・・・やりすぎたな・・・・)」
内心で舌打ちをしながらも、ヴィータは目的の遂行のため、なのはに向かって歩み続ける。
あの帽子を吹き飛ばされた瞬間、自分は感情的になってしまった。
完璧に相手を『ぶち殺す』勢いで攻撃を仕掛けてしまった。
シグナムが始終自分に冷静になれと言っているが、今回ばかりは素直に認めようと思う。
「(だけど・・・・よかった・・・・ありがとう)」
ヴィータは安心すると同時に、内心でこの魔術師に感謝の言葉を送った。
自分の攻撃を完全ではないとはいえ、防いだ事は癪だが、こいつは死ななかった。
正直下手な魔道師だったら、自分は誓いを破って殺してしまっていたに違いない。
だが、それとこれとは別、こいつは見逃すには欲しい相手だ。もう一撃食らわせた後、魔力をごっそりいただく。
「・・・・・わりいな・・・・・・恨んでくれても・・・・・・・かまわねぇぜ・・・・・・」
痛みに耐えながら、大破した杖を自分に向ける魔道師に言葉を投げかけた後、ヴィータはゆっくりと
アイゼンを振り被る・・・・・・・・・・そして

                   ガキィン

振り下ろした瞬間、突如横から飛んできた『何か』により、アイゼンは叩き付けられて、ヴィータの手から離れた。
「なっ!!?」
アイゼンは地面を滑るようにして転がり、その近くには一本の西洋の剣が床に深々と突き刺さる。
突然の襲撃にヴィータは驚きながらも、アイゼンを吹き飛ばした『何か』が飛んできた方向を睨みつける。そこには

            「弱い者虐めは・・・・・許さん!!!!」

ヴィータを正面から睨み返すナイトガンダムの姿があった。
「(なんだ・・・・・こいつ・・・・・・)」
睨みつけながらもナイトガンダムの姿を観察するヴィータ。
同時に気付かれないようにゆっくりと後方にさがる。
「(一見小型の傀儡兵に見えなくもねぇが、この世界の技術じゃ作れる筈がない。それじゃあ『ろぼっと』っていう機械人形か?
でもあいつからは魔力を感じる、間違いなく生物だ。おそらくオマケとして引っかかったのはこいつだろうな・・・・・・)何だテメェ・・・・管理局か!?」
先ずは敵か味方か確認しなければならない、ほぼ答えは決まっているだろうがヴィータは尋ねてみる。
「管理局?なんだいそれは?むしろこちらが聞きたい、この結界を張ったのは君だね?」
「ああ、そうだよ。だったら何だって言うんだよ?それに管理局じゃねぇんだったら、なんでアタシの邪魔するんだよ?こいつの知り合いか!?」
「いや、この子の事は知らない。だが、勝負が付いて尚、この子を攻撃しようとする君のやり方は間違っている。だから止めた。
もし、またこの子を傷つける様な真似をするんだったら・・・・・」
背中に背負っていた電磁スピアを抜き取り、その切っ先をヴィータに向かって突きつけ
「ラクロアの騎士・ガンダムが相手になる」
はっきりと言い放った。
その姿に、ヴィータは一瞬キョトンとするが、直に獰猛な笑みを浮かべる。そして
「・・・・へっ、どの道おめぇも対象だったんだ。順番が逆になっちまったが・・・・・関係ねぇ!!」
後ろに下がる様にジャンプ、一気にアイゼンが転がっている所まで飛び跳ね、アイゼンを拾う。
そして、ナイトガンダム同様に切っ先を突きつけ、言い放った。
「ああ!!相手になってもらおうか!!この鉄槌の騎士・ヴィータの相手をなぁ!!」
地面を蹴り、ナイトガンダムに向かって突進、グラーフアイゼン手加減無しに叩きつける。
迫り来るその攻撃を、ナイトガンダムは相手の力を見る意味も込め、避けずに盾で防ぐ。
激突した瞬間、発生した衝撃波は、周辺に散らばっているコンクリートの破片や、今だ立ち込ている煙を一気に吹き飛ばす。

「(こいつ・・・・真正面から防ぎやがった・・・・・)」
手加減無しの渾身の一撃、ハンマーフォルムに戻ったとは言え、障壁を使わず、ただの盾で真正面から防がれた事に、
ヴィータは純粋に驚くと同時に、悔しさを露にする。だが、そんな気持ちを表したのも一瞬、
「なろぉ・・・・・・待ってやがれ・・・・その盾たたきわってやらぁあああ!!!!!!」
盾を破壊せんと、腕に更なる力を込めた。

「(くっ・・・・なんて力だ・・・・)」
グラーフアイゼンの攻撃を耐えているナイトガンダムは素直な感想を内心で呟く。
正直、油断をしないで正解だったと思う。見た目はすずかと同じ、もしくは年下にしか見えない少女。
だが、彼女かから発せられる気迫は正に騎士。幾つもの修羅場や戦場を駆け抜けている者だからこそ
発する事が出来る気迫。それを感じた時点で、ナイトガンダムは『手加減』という言葉を捨てた。
目の前にいるのは子供ではない。百戦錬磨の兵だ。
だからこそ、強敵と戦う気持ちで・・・それこそ、サタンガンダムと戦った時の気持ちで戦わないと負ける。
目の前の少女をサタンガンダムと同等の敵と新たに認識したガンダムは、盾を持つ手に力を込めて
「おぉおおおおおお!!!!」
力任せにヴィータを払った。

吹き飛ばされながらも、ヴィータは空中で態勢を整え着地する。同時にグラーフアイゼンを振り被り、
近くにあった机をボールに見立て、
「おりゃあ!!」
ゲートボールで鍛えたスイングで叩きつけた。
叩きつけられた机は形を凹ませながらも、ものすごいスピードでナイトガンダムに迫る。
だが、迫り来る鉄の固まりを目の前にしても、ナイトガンダムは特に表情を変えずに、
盾を装着している左腕で、蚊を払うかのように難なくたたき払った。
正直大した効果を期待していなかったとは言え、あまりにもあっさり払われた事に、内心で舌打ちをするヴィータ。
「(・・・・・強ええな・・・・・あいつみたいな砲撃に特化した奴だったら、懐に入り込んでブチのめせるんだけど・・・・)」
確認の意味を込め、先ほど倒したなのはの方を見る。
苦しそうに自分達の戦いを見ているなのはの姿を確認したヴィータは、反撃は勿論、逃げる事も出来ないと判断し、無視する事に決める。
「(根拠のねぇ予想はしたくはねぇが・・・・こいつは武器からしておそらくシグナムと同じ接近戦を主体としてる・・・・・
カートリッジの無駄使いは出来ねぇ・・・・だけどカートリッジ無しで戦える相手でもねぇ・・・・)」
少しの隙も見逃さないように、互いに互いを睨みつけるように見据える二人。
先ほどとは打って変わり、今聞こえるのはなのはの苦しそうな息遣い。
「(・・・・・距離を取ってシュワルベフリーゲンで牽制、隙が出来たらラケーテンでぶっ叩く。もし無理でも時間が稼げる。
シグナム達が来ればこっちの勝ち・・・・・まぁ、こいつかあの魔道師の仲間でも来たらアタシはピンチ・・・・・賭けだな、こりゃ)」
行なうべき行動を考えたヴィータは即座に行動に出る。
「おりゃあ!!」
何の前触れも無くグラーフアイゼンを振り被り、リノリウムの床に叩きつける。
オフィス全体が響くと同時に、床に積もった塵が再び舞い上がる。
一種の煙幕と化した塵と埃はナイトガンダムに襲いかかり、一瞬だけ彼の視界を奪った。
だがその一瞬の時間だけあれば、ヴィータには十分だった。
「へっ!ここじゃあ狭すぎる!!外に出な!そこで相手してやる!!!」
割れた窓ガラスの向こうから聞こえてくるヴィータの声。
ナイトガンダムも即座に後を追おうとするが、直に方向を窓から倒れているなのはに変え、駆け寄る。
「大丈夫かい・・・・・・少し待ってて」
ナイトガンダムは電磁スピアを背中に掛け、しゃがみ込む。そして有無を言わさずになのはの胸元に手を当て、唯一自分が使える回復魔法を掛ける。
暖かい光りがなのはを包み込み、あれほど体を支配していた痛みが和らいでいく。
「・・・・少しは楽になったかい?だけど申し訳ない。僧侶ガンタンクだったらもっと効果のある回復魔法が使えるのですが・・・・」
「い・・いえいえ!!そんなことありません!!体の痛みが和らぎました!!」
本当に申し訳無さそうに頭を垂れるガンダムに、なのはは必死に弁護する。
「それに・・・助けていただいて・・ありがとうございます・・・・あの・・・・・」
「ああ・・・申し遅れました。私、ラクロアの騎士・ガンダムと申します。」
「ガンダムさんですか。私、高町なのはと言います。あの・・・・・・」
なのはの表情から、自分の正体を聞きたいことは直に分かったが、今はゆっくりと話をする暇は彼には無かった。
「申し訳ありません。なのはさんが色々と私について聞きたいのは分かります。私も貴方に聞きたいことがある。
ですが、今はそんな時間はありません。ですが一つだけ聞かせてください。なぜ、貴方はあの少女に狙われたのですか?」
あの少女は自分がこの結界を張ったと言った。そして『・・・・へっ、どの道おめぇも対象だったんだ。順番が逆になっちまったが・・・・・関係ねぇ!!』
とも言っていた。その情報から、彼女は襲撃者で、高町なのはと自分は襲撃目標だった事が分かった。
だからこそ、狙われたであろうなのはに心当たりが無いか尋ねたのだが、
なのはの口から出たのは、『自分にも分からず、突然狙われた』という答えだった。
「・・・・そうですか」
なのはから聞いた内容に嘘は無いと思う。だが、ナイトガンダムには妙なシコリが残っていた。
「(そうなると、あの少女はただの通り魔と言う事になる。だが・・・あの少女の目からは悪意が感じられない。
むしろ何かを決意した・・・・・いや、今考えるのはやめよう。この子の安全と、結界の解除を優先するべきた)」
今は戦う事に気持ちを切り替えたガンダムはなのはに、ジッとしているように言う当時に、床に刺さっている剣を抜き取り、
右腕に持つ。そして
「・・・・・・・参る!!」
ヴィータが待っているであろう、隔離されたコンクリートジャングルに向かって、ナイトガンダムは飛び出した。

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最終更新:2008年03月17日 23:00