魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第二話


・????

               それは、『彼』がまだ『一つ』だった頃

辺り一面は草しか生えていない草原。空はどんよりと曇り、時より雷が鳴り響き今にも大雨が降りそうな天気。
吹き荒れる強風が草を叩きつける音が鳴り響く。
「はぁ・・・・はぁ・・・・」
その草原を、一人のMSが走っていた。
名を『頑駄無真悪参』頑駄無軍団に『在籍していた』武者である。
彼は逃げていた。つい数分前までは味方だった者達から。だが、彼の表情には焦りは怯えといった感情は全く無かった。
「はは・・・・・ははははははは・・・やったぞ!!やったぞ!!!」
彼は笑っていた。その顔は事を成し遂げたように喚起に満ち溢れていると同時に、
邪な欲望を達成させたような邪悪さを醸し出していた。

今から数分前、彼は盗みを犯した。
頑駄無軍団の秘宝と言われる、『白銀の盾』と『銀狼剣』それを彼は盗んだ。
揚々と立ち去ろうとする彼を仲間は当然止めに入った。だが、
「・・・・・うるさいな・・・・・」
彼は小さく呟きながら、ゆっくりと愛用の刀を抜き、

          止めに入った仲間を切り殺た。説得しようとした仲間を切り殺た。

          迎え撃って出た仲間を切り殺した。許しを請う仲間を切り殺した。

         「裏切り者」とわめく仲間を切り殺した。動けない仲間を切り殺した。

彼は決して敵に寝返ったわけではない。彼は秘宝が欲しかった。ただそれだけ。
秘宝が手に入れば他の事など興味は無かった。だが、奴らは邪魔をした。戯言をほざいて俺の機嫌を損ねた。

             だから止めようとした奴を殺した。当然だ!

               戯言をほざく奴を殺した。当然だ!!

             自分を殺そうとした奴を殺した。当然だ!!!

「そうだ・・・そうだよ・・・・・・これは俺にふさわしいんだよ!!!!」
走るのを止めた真悪参は、仲間を殺めて手に入れた戦利品を天に見せ付けるようにして掲げる。
その瞳は仲間を殺した事への罪悪感など全く感じさせず、念願の宝物を手に入れた子供のようにときめいていた。
「ああ・・・・何時見ても美しい・・・・・・やはりこれは俺のものだ・・・・・武者七人衆の物でもない・・・・
…将頑駄無でも大将軍でも・・・・・闇軍団の物でもない!!!俺のものだ!!!」
彼はこの秘宝は自分の物であると信じて疑わなかった。否、『自分のためにこの秘宝は存在する』と彼は確信していた。
だから彼はその通りにした。自分の物にした。ただ息をするのと同じ感じで・・・・・自然な行為で。
「ははははははははは!!!!・・・・・・ん・・・・きたか・・・・・」
先ほどの嬉しそうな顔とは正反対な邪気に満ち溢れた表情で、逃げてきた方向を睨みつけるように見据える。
今はまだ、豆粒程度にしか見えないが、おそらくは自分を追ってきた討伐隊であろう軍団が迫ってきた。
「クククク・・・この覇気・・・・・頑駄無がいるな・・・・・・面白い・・・・」
数にして2~30はいるだろう討伐隊の中に、群を抜いて覇気が強い人物を5人見つけた真悪参。
ほぼ間違いなく、武者頑駄無を先頭とした頑駄無五人集であると彼は感じ取った。
実力に関してなら、1人1人が真悪参に匹敵する実力を持っている。それ程の兵が5人いる上に、伏兵が約30
普通なら挑む事すら馬鹿らしい状況、逃げるのが最善の手なのだが、真悪参は走る所が、自信に溢れた瞳で前を見据え、立ち尽くした。
『迎え撃つ』という、最も馬鹿な選択を実行するために。
「・・・・・丁度良い。後から金魚の糞のように付きまとわれるのも鬱陶しいからな・・・・殺っとくか」
楽しそうに呟きながら、鞘から愛用の刀を抜く。その刃には仲間を切り殺した時についた返り血がベットリとついており、
普段の白銀の美しさは全く無かった。
「・・・・・・・汚いな・・・・・・もう・・・・・いらない」
武者となってから今まで苦楽を共にしてきた彼方を、汚物を見るような目で見つめた後あっさりと草むらに投げ捨てる。
「今の俺にはこれがある・・・・・・丁度言い、試し斬りと洒落込もうか。相手は頑駄無・・・・クククク・・・・こいつの晴れ舞台には丁度言い」
これから遊びに行くかのように、楽しそうに笑いながら、真悪参は『白銀の盾』からゆっくりと『銀狼剣』を抜き取る。
長らく倉庫に保管されていたにも拘らず、手入れをしたばかりの様に白銀に輝くその剣を周囲に見せ付けるように天に掲げ、改めて歓喜する。
そして銀狼剣を構えなおし、前方から近づいてくる『敵』に向かって、走りだした。

だが、彼が戦う事はなかった。
それ以前に、彼自身も何が起きたか分からなかっただろう。
後に、一部始終を見ていた武者頑駄無は将頑駄無にこう報告をした。

            「天より、捌きの雷が舞い降り、真悪参を秘宝諸共、黄泉の国へといざなった」と


・月村家

:客室

「・・・・・・・う・・・ん・・・」
小さい唸り声を上げながら、ナイトガンダムはゆっくりと目を開ける。
最初に目に入ったのは真っ白な天井。彼は直に室内にいると理解し、ベッドから上半身を起こした。
「・・・・・ここは・・・・・・」
先ずは、ゆっくりと辺りを見回す。タンスや化粧台などの調度品や、よく分からない黒い四角い板などが目に付く以外、
特に変わったところが無い部屋。備え付けられている窓は少し開いており、時折吹く風がカーテンを静かに揺らす。
見た所、自分を見張る見張りもいな・・・・・いや、
「にゃ~」
猫がいた。大きさからしておそらくは子猫。ナイトガンダム同様先ほどまで眠っていたのであろうか、眠そうにあくびをする。
「ふふ、すまないな、起こしてしまって」
優しく微笑みながら、自分が寝ているベッドの上で相変らずあくびをしている子猫の頭を優しく撫でる。
最初は、突然の行為に子猫はびっくりした様に体をビクつかせていたが、直に気持ちよさそうに目を細め、身を任せていた。
「確か・・・私は・・・・・サタンガンダムとの戦いで・・・・・」
子猫の頭を撫でながらも、自分に何が起きたのかを思い出す。
あの時、自分は三種の神器の力を借り、どうにかサタンガンダムを倒した。
だが、消えゆく姿に勝利を確信してしまい、奴の魔法を受けてしまった。
そして、奴は最後にこう言っていた。

         「だが・・・貴様・・・・を・・・何処も分からぬ・・・・世界へ・・・・・・飛ばす事は・・・・・可能だ・・・・」

奴が苦し紛れに吐いた負け惜しみだとは到底思えない。そうなると
自分は異世界に飛ばされた事になる。今の所危険は無さそうだが、武器を取り上げらた以上、じっとしているわけには行かない。
先ずは、自分を保護してくれたであろう人物に会う事にした。
「すまないな、少しどいてくれるかい?」
ナイトガンダムの言葉を理解したかのように、猫は『にゃ』と一鳴きした後、ナイトガンダムが寝ているベッドから飛び降り、
そのまま床に着地。数歩歩いた後、次の指示を待つかのように再び座りだした。
「・・・・・・賢い猫だ」
素直な感想を口にした後、多少ダルさが残る体を引きずる様にして、ベッドから出ようとしたその時、

                    「ガチャ」

扉が開く音と共に、この家の主、『月村すずか』が入ってきた。
学校帰りなのだろう、制服姿にカバンを持ったすずかは、先ず目に入った床に座っている子猫を見て微笑み
次に目に入った上半身を起こしたナイトガンダムを見て
「・・・・・あっ・・・・・・」
固まった。
すずかは一言で言えば、内気な大人しい子である。今ではアリサやなのは達との付き合いで、少しは改善されているが、
(昔のすずかだったらあの時、本を取る手助けはしても、初対面のはやてに声を掛けたりはしなかっただろう。)
内気で大人しい事には変わり名は無い。そのため、初対面での挨拶などでは常に緊張してしまうこともよくあり、
「・・・・・あっ・・・・・・えっ・・・・・」
今は正にそんな状況であった。
特に今回は、相手が人間でないため、緊張を通り越してパニックを起こしそうになるが、どうしたらいいものかと必死に考える。
「(どうしようどうしよう!!言葉は通じるのかな?ジェスチャーのほうがいいかな?ああでも、衛生放送で見たアニメだと
降伏を表す白旗が向こうでは『相手を全滅させるまで戦いぬく』って意味だったし、下手にジェスチャーして、
偶然に『お前を殺す』という意味だったら・・・ああ・・・どうしよどうしよどうし)あの」
傍目から見ても分かるくらいに慌てているすずかに、ナイトガンダムは落ち着かせようと堪らず声をかけた。
「そんなに慌てないで、落ち着いて」
「は・・・はい!!」
「深呼吸をしてごらん。ゆっくりと」
「はい。す~は~、す~は~、す~は~」
優しく語り掛けてくるナイトガンダムの声に従い、すずかは言われた通りに数回深呼吸をする。
その様子を微笑ましく見ていたナイトガンダムは、頃合を見計らって再び声を掛ける。
「落ち着いたかい?」
「はい・・・・あの・・・・ありがとうございます」
「いや、お礼を言うのは私の方だよ。君が助けてくれたんだね?」
「えっ・・・・はい。そうなります」
肯定の返事を聞いたナイトガンダムは無言で頷くと、ゆっくりとベッドから出る。
そしてすずかの目の前まで近づくと、
「何処の誰かも知らぬ私を助けていただき、誠にありがとうございます。私、ラクロアの騎士・ガンダムと申します」
跪いて頭を垂れながら感謝の言葉と、自身の名前を名乗る。
その光栄は、宛ら小さな姫に忠誠を誓う騎士のようであった。
「あっ、はい。どういたしまして。私はすずか。月村すずかと言います」
ナイトガンダムの突然の対応に、すずかは反射的に自身の名前を呟きながらペコペコと頭を下げる。
その光景は自分のミスを必死に上司に謝る新入社員のようである。
すずかのあまりの必死な反応に、ナイトガンダムは自然と笑みを溢す。だが、直に顔を引き締め、あることを尋ねる。
「すずか殿、お尋ねしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「すずかでいいですよ、ガンダムさん」
「わかりました、すずか。早速なのですが、『スダ・ドアカワールド』をご存知ですか?」
顔では冷静を装ってはいるが、すずかの回答に胸の高鳴りを抑えようと必死になるナイトガンダム。
この質問の回答で全てが分かる。もし、ここが『スダ・ドアカワールド』だったら、即『はい』と答える筈。だが、
「スダ・ドアカワールド?どこかの・・・・テーマパークですか?」
その答えは、ナイトガンダムが異世界に飛ばされた事、サタンガンダムが吐いた言葉が負け惜しみでない事、
その二つが立証された瞬間だった。

・テラス

「へぇ~、じゃあナイトガンダムがいた世界って、正に剣と魔法の世界なんだ~」

あの後、ナイトガンダムが起きた事を知らせるために、先ずは姉である忍の部屋に向かった二人。
直に『ああ~エリート兵ムカつく!!』『なんで3%で当たるのよ!?しかもクリティカル!!』
と叫びながら10年前に発売されたゲームを必死にやっている忍を見つけたため、声をかけると
「何~すすか~?お姉さんはこのゲームのあまりの不親切さに怒りを覚えて
早速中身を弄ってやろうと思っている真っ最中な・・・・・あああああ!!!!起きたんだ!!」
先ほどまで離すまいと握っていたゲームのコントローラーを投げ捨て、ものすごい速さでナイトガンダムに近づき
マジマジを見つめる。
「う~ん・・・・・やっぱり可愛いわね~。ねぇねぇ、君、何処から来たの?異世界?別銀河?火星って事は無いでしょう?
目的は何?侵略?偵察?友好関係を築くための訪問?」
「えっ・・・・あっ・・・あの・・・・・」
楽しそうに質問をマシンガンのようにぶつけて来る忍に、魔王を倒したナイトガンダムも、どうしていいのか分からず慌ててしまう。
「もう、お姉ちゃん。ガンダムさんが困ってるでしょ?」
そんなナイトガンダムの慌てように、すずかは小さく笑いながらも、助けるために暴走している姉を止めようとするが、
「へぇ~、ガンダム君って言うんだ~。私は忍。月村忍。この子のお姉さんをやってま~す。で、話の続きだけど
侵略はやめといたほうがいいわよ~。ウチのメイドはプレデター以上に強いし、恭也とその家族なんてそれ以上よ。
だけど可愛いわね~♪金属かと思ったけど、やわらかいし。ほ~れほれ、もっと伸びろ~」
「あ・・・あの・・・やめてくらはい」
忍の暴走は止まる事は無かった。

その後、すずかの頑張り(といっても、手がつけられなかったので実際暴走を止めたのはすずかが呼んだノエル)により、
忍の暴走も沈静化。
「とりあえず、お茶でも飲みながら、お話ししてはどうでしょう?」
このノエルのアイデアにより、すずか達とガンダムは、庭のテラスでお茶を飲みながら、ナイトガンダムの世界についての話を聞いていた。


「はい、治療や攻撃などで魔法は一般的に使われていました・・・・・ああ、ありがとうございます。ノエルさん」
お茶を持って来たノエルに、笑顔でお礼を言いながらも、話の続きをする。

・自分達の世界では人間族とMS族が共に暮らしていた事
・だが、突然人間を滅ぼし、MS族だけの世界を作ろうとした『サタンガンダム』が現れた事。
・自分は仲間と共に『サタンガンダム』を倒すために旅に出たこと
・苦難の末、仲間の力と三種の神器の力で『サタンガンダム』を倒した事。
・最後の最後で、『サタンガンダム』の魔法を受けてしまい、この世界へ飛ばされた事。

それらの事をゆっくりと、時には所々に説明を入れながら、ナイトガンダムは話した。
「なるほどねぇ~、話を聞く限りじゃ車なんかは勿論、電気すら日常生活では使って無さそうね。
こっちの時代で言うと中世ヨーロッパっぽい所か~」
腕を組み、『ウンウン』と頷きながら『納得した』といいたげに頷く忍。
だが、ナイトガンダムはその反応に納得がいかなかった。だから素直に口にした。
「信じるのですか・・・・・・私の話を・・・・・」
彼からしてみれば、自分の話を素直に信じてくれる彼女達の方が信じられなかった。
そもそも、この世界『チキュウ』では自分のようなMS族は存在しない。正に自分はこの世界では『異物』である。
正直『化け物』と罵られて当然なのだ。だが、彼女達は自分を物珍しそうに見てはいるが、けっして恐れてはいなかった。
ナイトガンダムの質問に、忍たちは一瞬ポカンとするが、数秒後には皆一斉に笑い出した。
「ふふふっ、ごめんなさい。急に笑って。だけどガンダム、「信じるのですか」といっても、『貴方』という生き証人が目の前にいるじゃない?」
「それに、ガンダムさんが嘘を言っているとは思えないよ」
何の疑いの色も感じさせない瞳で、自分を見据える忍達に、ナイトガンダムは自分の考えを恥じた。
彼女達は自分の事を疑ってはいない。それ所か、何の警戒も無しに保護してくれた彼女達を、自分は疑ってしまった。
正直、情けない気持ちと罪悪感で胸が一杯だったが、今は素直な気持ちでお礼を言いたかった。
ナイトガンダムは席を立ち、数歩後ろへ下がる。忍達が見渡せる位置まで下がると、先ほどすずかに行った様に跪いて頭を垂れた。
「忍殿、ノエル殿、ファリン殿、すずか。何処も知らぬ私を保護してくれた事、そして、私の話を信じていただいた事に改めて感謝をいたします」
「いいのよいいのよ、そんなに畏まらなくても。ほら頭上げて」
忠誠を誓う様に跪くナイトガンダムの姿に、忍は内心では『う~ん・・・・悪くないわね~』と思いながらも、頭を上げる様に言う。
「まぁ、事情は分かったわ。ノエル」
「はい、ガンダム様のお部屋ですね。直に用意を致します」
忍とは長い付き合いのため、瞳を見ただけで何をして欲しいのかを理解したノエルは、笑顔で答える。
「というわけだから、このまま家に厄介になっちゃいなさい。この家に住んでるのは私達だけだから心配要らないわ。」
流石に、そこまでしてもらうわけにはいかないと言おうとするが、この世界では自分は異質な存在。
それこそ外にでたら大騒ぎになってしまう。その事を忍達の説明で理解していたナイトガンダムは、彼女達の行為を素直に受け入れる事にした。
「度重なるご好意、このナイトガンダム。感謝の言葉も見つかりません」
「だからそんなに畏まらないで。だけどこう言う状況だと、正に『姫に忠誠を誓う騎士』って感じね。そう思わない?」
空になった各自のティーカップに、おかわりのお茶を注いているファリンに話を振る忍。
「ふふっ、そうですね。でも、忍様には既に『騎士』がいらっしゃるじゃありませんか」
屈託の無い笑みで答えるファリンに、忍は顔を真っ赤にしながら照れを隠す様に無言でファリンの背中をバシバシと叩く。
「あ~も~!!ファリンったら!!恥ずかしい台詞禁止!!!」
そんな光景を止める所か、微笑ましく見ていたノエルはすずかに話しかける。
「そうですね。私達に関しては忍様達に仕えるメイドという立場がありますから・・・・ガンダム様は、すずか様の『騎士』ですね」
「そんな、勝手に決めちゃガンダムさんに申し訳ないよ。むしろ『騎士』なら外国人のアリサちゃんのほ・・・・・ああああ!!!!」
突然叫び声をあげながら立ち上がるすずかにびっくりする一同。そして
「今日・・・アリサちゃんが家に来るんだった!!」
その発言により、今度は一同(ナイトガンダム以外)が慌てる事となった。

・月村家リビング

「いい、プランは2つあるわ」
場所は移り変わってリビング。そこでは伊達メガネをかけた忍がホワイトボードを背に仁王立ちしており、
目の前のソファーに行儀良く座るすずか達を見つめていた。
「その・・・・あの・・・・二つのプランというのは・・・・・」
あまりの迫力にビビリながらも、ファリンがおずおずと手を上げながら尋ねると、忍はメガネを光らせながら、
「よく言ったぁ!!!」
とハイテンションに叫びながら水性マジック(赤)で二つのプランを書き出した。

      『プランその1=永遠にかくれんぼ作戦』

『プランその2=俺はキカイダー作戦』

書き終えた忍はホワイトボードを平手で叩き、無理矢理注目させようとするが、
「・・・・・・・さて、アリサ様達のおやつでも作りましょうか」
「あっ、子猫達のミルクの時間だ」
「ガンダムさん、屋敷の中を案内しましょうか?」
「ええ、是非お願いします」

       「皆して無視すんなぁああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

忍の叫びが屋敷に木霊した。

「・・・・忍様・・・・・・色々と突っ込みたい所が満載なのですが・・・・先ずはそのネーミング・・ではなく
どんな内用か教えていただけませんか?」
オデコに手を載せ「やれやれ」と頭を振りながら質問をするノエルに
「しょうがないな~!!」
と、嬉しそうに偉そうに(実際、この家では一番偉いので間違ってはいない)言い放ちながら作戦内用を話し始めた。
「先ずは『永遠にかくれんぼ作戦』。これはぶっちゃけ、ガンダム君をこの月村家に監禁するって寸法よ。これならばれる心配無し!
次の『俺はキカイダー作戦』はそのままの意味で、ガンダム君にロボットに成りすましてもらう作戦。正に『月村の科学力は世界一』わかった?」
説明が終った忍は皆に意見を聞くために顔を向ける。

すると皆(ナイトガンダム以外)が声をそろえて

                「「「プランその二!!!(ですね)(です)」」」

を推薦した。

「・・・・・・・はぁ・・・・・」
皆のテンションについていけないナイトガンダムは、ただ生返事をする事しか出来なかった。

・二時間後

「・・・・・・遅いな・・・・・アリサちゃん」
空になったティーカップの淵をなぞりながら呟くすずか。
普通なら既にアリサが来ており、一緒にゲームをしているであろう時間。だが、アリサは未だに来ないでいた。
「携帯電話にも繋がらない・・・・・・どうしたんだろ?」
急用でも出来たのかと思い、アリサの携帯電話に連絡をしてみるが、いくらやっても
『電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、かかりません』という音声アナウンスが流れるだけであった。
少なからず心配になったすずかは、おそらく鮫島さんかメイドさんには繋がるだろうと思い、アリサの家に連絡しようと携帯電話を操作しようとしたその時、
月村家の電話が鳴り響いた。
直に電話を取ったノエルは、二言三言話終えた後、静かに受話器を下ろす。
そしていつも以上の冷静な声で忍を呼んだ。

「アリサちゃんが・・・・」
「はい、こちらに来ていないかと、鮫島様から連絡が・・・・・」
真剣な顔で話をする忍とノエル。本来ならすずかは二人の邪魔をしない様に静かにこの場から去るのだが、
二人の深刻な顔、そしてアリサの名前が途端、
「アリサちゃんがどうしたの!!?」
大声を出し、二人の会話に入り込んだ。
「すずか様・・・・あの・・・・・・」
すずかの普段見せない必死な顔にノエルは言葉を詰まらせる。
忍も黙り込むが、観念したように溜息をついた後、電話の内容を話し始めた。
「アリサちゃんがね・・・・・・・家に帰ってこないのよ・・・・・・だから鮫島さんから電話があってね。家にいないかって」
「えっ・・・だって・・アリサちゃんは・・・・・うちに来てないよ・・・・・」
「ええ・・・・だから何かあったのかもしれないって。寄り道してるんじゃないかって言ったんだけど、
今日はアリサちゃんのお父さんが早く帰ってくるらしくって・・・・・・・」
忍はそこで言葉を詰まらせるが、すずかはすべてを理解した。
アリサは俗に言う『お父さんっ子』である。そんな彼女が普段は仕事で中々会えない父親と会えるのだ。
どこかに寄り道しているというのはおかしい。それ以前に連絡か何かを入れる筈である。そうなると・・・・・・
考えれば考えるほど、嫌な不安がすずかの頭を過ぎる。
そんな妹に、姉である忍はゆっくりとしゃがみ、同じ目線ですずかを見据えながら、安心させる様に頭を優しく撫でる。
「ほら、そんな泣きそうな顔しないの。まだ何かあったと決まったわけじゃないんだから。ね?」
安心させるように笑顔で励ます忍に。すずかはゆっくりと頷いた。
「よし、それでこそ私の妹だ。ノエル、車を用意して、私達も探しに(待ってください」
突然聞こえた声に、そこにいた一同が一斉に振り向く。するとそこには、ナイトガンダムが普段戦いで見せるような表情で立っていた。
「私も連れて行ってください。人数は少しでも多い方がいい筈です」
「・・・・・・わかったわ。お願いする。ファリンはすずかと家で待ってて。ガンダム君、ついてきて。直に出発するから」
ファリンがすずかを連れてリビングから出たのを確認した忍は近くのコート掛けから自分とノエルのコートを持ち玄関へ向かう。
ナイトガンダムも直に忍の後を追おうとするが
「待って!!ガンダムさん!!」
ファリンに連れられ、部屋に帰った筈のすずかが息を切らせて戻ってきた。
その手には愛用のマフラーと写真を持って。
「これ・・・・外は寒いから・・・・。あと、この子がアリサちゃん・・・・・・だから・・・その・・・」
ナイトガンダムの首ににマフラーを掛け、アリサの写真を渡すすずか。その行為に、早速お礼を言おうと彼女の顔を見るが、
不安で押しつぶされそうな彼女の顔を見た途端、口をつぐむ。そして、彼女との初対面でやった様に目の前で跪き、頭を垂れた。
「すずか。私、騎士ガンダムは必ずや、貴方のご友人を無事に見つけ出す事を誓います。ですから、私達を信じて、お待ちください」
ナイトガンダムの誓いの言葉を聞いたすずかは一瞬キョトンとするが、直に安心したような笑顔を作った。
「分かりました。ナイトガンダム、必ずアリサちゃん見つけてきてください。ただし、一つ命令をします」
「何なりと」
「必ず、無事に帰ってくること。約束してください」
「御意」
約束するように深々と頭を下げた後、立ち上がり、直に忍の後を追った。

・????

「・・・・ん・・・・・ここ・・・は・・・・」
朦朧とする意識の中、アリサ・バニングスはゆっくりと目を開ける。
先ず目に付いたのは真っ暗な景色、だが、暫らくすると目が慣れ、辺りが見えるようになった。
割れた窓ガラス、彼方此方タイルが剥がれている床。コンクリートがむき出しになっている壁とそこに書かれている落書き。
散乱している缶などのゴミ。この事から自分がいる所は廃棄されたビル。割れた窓ガラスの景色から見るに、自分がいる場所は
市街地の外れ、おそらく丘の上の墓地の近くにある、取り壊されずにそのまま放置されているあの廃ビルであろうと考える。
続いて今の自分の状態を確認する。
両手両足が縛られており、近くには学校のカバンと壊れた携帯電話。
なぜ自分はつかまっているんだろう?と考えた途端、数時間前の出来ごとがフラッシュバックのように頭をよぎった。
「確か、学校ですずかと一緒に遊ぶ約束をした後、鮫島の帰りをまってたんだっけ。なのはもすずかも掃除当番で遅かったから
今日は一人で帰ることになって・・・・・・校門で待ってたら・・・・・パパの知り合いって人が尋ねてきて・・・・・・
最初は怪しいと思ったんだけど・・・・今日パパの帰りが早いことも知ってたし、パパの会社の社員証をもってたら、信用して、
鮫島には悪いと思ったんだけど、すずかの家に持ってくゲームの整理や、パパに食べてもらいたいクッキーの下拵えとかしたかったから。
その人と一緒に家に向かっている途中で・・・・誰かに強い力で押さえつけれて、騒ごうとしたらなにか変なにおいがする布を押し付けられて・・・・・」
ここでアリサの記憶は途切れた。だが、最後にはっきりと憶えているのは
「おやおや、ようやくお目覚めですか?アリサお姫様?」
自分を騙し、自分をここに監禁させている男の顔だった。


「ここで分かれましょう」
ノエルの運転する車から降りたナイトガンダム達はアリサを手分けして探す事にした。
商店街や海沿いはアリサの関係者が探している。そのため忍達は市街地の外れ、神社や山奥を探す事にした。
「見つけたら直に連絡を、ガンダム君も、連絡する時はこれを使ってね」
そう言い、忍はポケットから予備の携帯電話を取り出し、ナイトガンダムに渡す。
「この辺なら、人があまりいない分、ガンダム君も行動はしやすい筈よ。お願いね」
「分かりました。皆さんも気をつけて」
ナイトガンダムの気遣いに、二人は笑顔で頷いた後、一斉に行動を開始した。


「あんた・・・・・どう言うつもり?これ、犯罪よ!!?」
捕まったことへの恐怖感を誤魔化す為に、いつもの強気な態度で言い放つ。
だが、アリサを誘拐した男はその態度を鼻で笑いながらゆっくりと近づいてくる。
「ふふっ、さすがはあのバニングス氏の娘さんだ・・・・・お気が強い」
「・・・・・あんた、一体何が目的・・・・?」
「何、君のお父さんに、幾つかの取引きから手を引いてもらうようにお願いするだけだよ。
まぁ、いくら仕事人間の彼でも、娘の命には変えられまい」
「(こいつ・・・・パパの・・・)・・・・・・ふざけないで・・・・」
アリサは言葉を吐き捨てながら余裕たっぷりの笑みで答える男を射殺さんばかりに睨みつける。
同時にこの男が語った内容を頭の中で整理する。
「(・・・・・こいつは、『幾つかの取引きから手を引いてもらう』って言った。ほぼ間違いなくパパのライバル会社の回し者。
多分直接関与するとマズイだろうから、この男は雇われてるのね。だけど、普通の手段で勝てないからって誘拐なんで真似をするなんて)
ふふっ、情けない相手」
アリサは可笑しくて仕方が無かった。相手があまりにも情けなくて。むしろ哀れにも思える。
「・・・なんだと?」
急に不適に笑い出したアリサに、男も余裕の笑みを崩す。
「だってそうでしょ?パパに実力で勝てないからってこんな手を使うなんて。情けないと思わない?はっ、こんな
馬鹿な方法しか思いつかないなんて、そいつ、先はなが(パシッ!!!」
突然の男の平手打ちがアリサを襲った。
お嬢様と言われるアリサでも、決して甘やかされて育てられたわけではない。父親に叩かれた事も何回かある。
だが、そのすべてがアリサに非があったため、父親から与えられるその痛みを甘んじて受け入れる事ができた。
だが、今回のは違う。一方的な、理不尽な痛みだ。
「うるせぇガキだ・・・・・・まぁいい。今から黙らせてやる。いや、騒がしくなるかなぁ?おい!!」
先ほどとはうって変わってドスの聞いた声で叫ぶ男。
すると、奥の部屋から数にして4人の男が歩いてきた。どの男も自分の姿を見た途端、欲望をむき出しにした笑みを浮かべる。
「ヒッ!」
その男達の姿を見たアリサは顔を引きつらせる。
彼女は今回ほど自分の知識の多さを後悔した事は無い。
分かってしまったからだ、自分がこれから何をされるのかを。どんな目に遭うのかを。
「ひゅ~、アリサちゃん、自分が何されるか分かってるんだ~。最近の小学生は進んでるねぇ~」
後から来た男の一人が、口笛を吹きながら嬉しそうに呟く。それに釣られて笑い出す男達。
彼らは楽しんでいた。アリサの怯える姿を、同時に感謝をしていた。このような娯楽を提供してくれた雇い主に。
「悪いね~、アリサちゃん。今から君が思っている通りのことをするよ~。でも安心してね、君の初めてはちゃ~んと記録するから」
ビデオカメラを構えた男が、ニヤつきながらアリサの姿を撮影し始めると同時に、残りの男達がジリジリと距離をつめていく。
「いや・・・いやぁ!!!!」
恐怖に耐え切れなくなったアリサは堪らずに叫ぶ。
「こいつ!暴れるな!!」
業を煮やした男達は暴れるアリサを力づくで押さえつける。どうにか逃げようともがくも、
大の大人が3人がかりで押さえつけているため、動く事ができない。
ならせめて罵倒でも浴びせてやろうとするが
「おい!口になんか詰め込んどけ!!」
「なにするムグッ!!」
おそらくは男達の所持品であろうハンカチを無理矢理口につめられ、声も出す事が出来なくなった。
そのため、恐怖も一段と増し、自然と目を閉じる。
「(いや・・・・・こんなの・・・・・・いや!!!)」
本当ならすずかの家で遊んだ後、パパと一緒に食事をしているであろう時間。
だが現実では手足を縛られ、目の前の男達にいやらしい事をされようとしている。
「おいおい、俺は騒ぐ方が良かったんだけどなぁ~」
「文句言うなよ。楽しめる上に金までもらえるんだ。これ以上我侭言ったら天罰が下るぜ」
いっそ思いっきり泣いてしまおう。そうすれば少しでも気が紛れるかもしれない。
「さて、先ずは俺からだ。さ~て、アリサちゃん脱ぎ脱ぎしましょ~ね~」
男の生暖かい息が肌に触れる。制服のリボンが取られる。

           いや・・・・・泣くものか。泣けばあいつらは喜ぶだけだ。

「(・・そうよ・・・・私は、アリサ・バニングスよ!泣くなんて絶対しない!泣いてたまるもんですか!!!)」
腹は決まった。私は泣かない。私は屈しない。絶対に!!!
せめてもの抵抗にと、目の前にいるであろう男を睨みつけてやろう目を開ける。
案の定、目の前には興奮しているのか、息を荒くする男の顔があった。その変態男と目が合ったため、射殺さんばかりに睨みつけようとしたが

                    「グギャ!!」

彼女は男を睨みつける事が出来なかった。
当然だ、男は真横から飛んできた空き缶の直撃を受け、彼女の目の前で奇声をあげながら真横に吹き飛び、ゴミが散らかっている床に顔から着地。
そのまま鼻血を面白いように出しながら体を痙攣させ、気絶したからだ。
アリサは無論、突然仲間が吹き飛んだ事に唖然とするが、直に空き缶が飛んできた方を向く。するとそこには

            「・・・・・ロボット・・・・?」

アリサの足を抑えていた男が第一印象を呟く。
大きさからして1メートル強。西洋の甲冑のような物を着たロボットが、自分達を睨みつけていた。
「何だぁ?テメェは!!?」
見た目から、恐怖感や危機感を感じなかった上、せっかくの楽しみを邪魔された事に、
アリサを押さえつけていた男は強気な態度を取る。だが、
乱入者は浴びせられる罵倒を無視し、アリサの足を押さえている男に近づく。
楽しみを邪魔された上に、無視までされた男は、顔を真っ赤にしながらアリサの足から手を離し、
「無視すんじゃねぇ!!!」
感情に任せて、殴りかかった。男の拳が迫るが、乱入者はそれを軽々と受け止める。そして
「外道に語る言葉など・・・・無い!!!!!!」
乱入者・ナイトガンダムは掴んだままの男の拳を引き、男の体を無理矢理こちらに寄らせる。
そして十分リーチが届く距離まで近づいた瞬間に

                「ドゴッ!!」

男の顔面に強烈なストレートを放った。
その結果、男は最初に吹き飛ばされた男同様に奇声をあげながら倒れこむ。
その姿にアリサの手を拘束していた男は、顔を引きつらせ、逃げようとするが
「逃がさん!!!」
ナイトガンダムは飛び上がり、先ほどストレートを放ち、ゆっくりと倒れこんでいる最中の男の頭を踏み台にし、さらにジャンプ。
一気に加速をつけながら体を回転させ、背を向け逃げようとしている男の背中に蹴りを叩き込んだ。
「な・・・なんだ・・・こいつは・・・・・・」
陵辱されるアリサを撮影する筈だった男は、今は自分達の仲間を次々と倒していく乱入者を写していた。
こいつは一体何なんだ?ロボットなのか?生物なのか?この女の子の知り合いなのか。
自問しながらも、自分でも不思議なほどに冷静に、真剣にカメラを回す男。
だが、男の撮影はここで終る。
ナイトガンダムが放った拳が、男の鳩尾に直撃したからだ。

「う・・・動くなぁ!!!!!!」
狂ったように叫び声をあげながら、仲間をすべて倒したナイトガンダムに向かって叫ぶ男。
その手には拳銃が握られており、恐怖で震えてはいるものの、その狙いは真っ直ぐナイトガンダムに向けれていた。
「てめぇは・・・・てめぇは・・・・・何者なんだよ!!!」
叫びながら連続して3発放つ。だが、手の震えで照準がずれているため、ナイトガンダムには当たらず、床と壁に小さな穴を開ける結果に終った。
突然の発砲音にアリサは目を瞑り、身を縮ませる。
だがナイトガンダムは動かず、真っ直ぐに男を見据え、ゆっくりと歩き始めた。
「見・・・見るな・・・来るな・・・来るな・・・・・見るなぁ!!!!」
口から涎を撒き散らしながら連続して発砲。
乾いた音が廃ビルに響き、そのたびにアリサは体を震わせるが、ナイトガンダムは恐怖を全く表さずに歩み続ける。
むしろ恐怖を感じているのは発砲を続ける男の方だった。
拳銃の弾を恐れずに自分に向かってくる、ロボットなのか生物なのかも分からない者。ただ、その瞳は
倒すべき敵を・・・自分を・・・・ずっと見つめていた。
「だから・・・・来るなって・・・・・見るなって・・・・・言ってるだろ!!!!」
もう男には狙いをつける余裕も無かった。だが、距離が近かったため、我武者羅に撃った最後の2発がナイトガンダムの鎧に当たる。
だが、せっかく当たった弾丸も強固な鎧に弾かれ、小さなキズを作るだけに終った。
「満足か?」
震える男の前で立ち止まり、静かに尋ねる。
「あ・・・ああああ・・・・・・」
「答えないのなら構わない。だが、貴様は、我が恩人の友を辱めようとした・・・・・その報いは・・・・・受けてもらう!」
前へジャンプし、一気に相手との距離を詰めたガンダムは鳩尾に拳を放つ。
着地と同時に、うずくまる男のあごに向かって、トドメとばかりに、救い上げるように拳を放った。

一部始終を見ていたアリサはただ呆然とするばかりであった。
自分のピンチに突然現れ、誘拐犯達を次々と打ち倒したロボット。
いや・・・そもそもロボットなのだろうか?
アリサにはそうには思えなかった。確証などは勿論無い。ただ、そんな風に感じるだけなのだが・・・・
「大丈夫かい?」
考え事をしていたため、突然の声にビックリはしたが、被害と言えば制服のリボンを取られた事位なので
『大丈夫』と返事をしようとしたが、
誘拐犯が無理矢理口に詰め込んだ布のせいで、声を発せずにいた。
「酷い事を・・・・・・ちよっと待ってて」
駆け足で近づいてきたナイトガンダムによって詰め込まれた布と、手足のロープを解かれたアリサは、ふらつきながらも
どうにか立ち上がる。
「あの・・・・助けてくれて・・・ありがとう・・・・・えっと・・・・」
次の言葉が見つからずに、途方にくれるアリサに、ナイトガンダムは跪き頭を垂れた。
「申し遅れました。私、ガンダムと申します。アリサ・バニングス殿ですね」
「は・・・・・はい。そうです」
「月村すずかの命により、貴方を探しに参りました。これを」
背中に備え付けてある布袋から、すずかから渡された写真を取り出し、アリサに渡す。
「これ・・・・・」
なのは、アリサ、すずかの3人が写っているこの写真。
これはパパのカメラを使って、鮫島に撮ってもらった写真。世の中に3枚しかない大切な写真。
アリサは無意識に、その写真を抱きしめる。優しく、愛おしく。
その間、ナイトガンダムは何も言わなかった。黙ってアリサの言葉を待つ。
「・・・・・・よし!帰りましょ!その・・・ガンダムさん?」
「ガンダムで構いませんよ」
「わかったわ、私もアリサでいいわ。それとこれ、すずかに返しといて」
渡された写真を返そうと一歩前に出たその時、突然アリサは崩れ落ちた。
突然体に力が入らなくなった事に驚くが、自分の体である。原因は直にわかった。
「はははは・・・・・腰が・・・・抜けちゃった・・・・・」
今までの恐怖や緊張が一気に体に襲い掛かったため、体が素直に反応した結果であった。
「ごめん・・・ガンダム・・・・ちょっと手をかし・・・・・・」
起き上がるために手を借りようと手を伸ばすが、ナイトガンダムはその手をすり抜け、ゆっくりとアリサを抱きしめた。
「えっ・・・・・・ちょ・・・・・・」
アリサはナイトガンダムの突然の行為に顔を真っ赤にするが、自然と不快感は感じなかった。そして耳元で聞こえる声
「アリサ殿・・・・・・貴方は強い。あのような事があっても、自分を見失わずに振舞う事が出来る。おそらくは
皆の下へ帰っても、同じ様に振舞う気でしょう」
ナイトガンダムの言葉には間違いは無かった。だからアリサは黙って聞く。
「ですが、それでは貴方の心が壊れてしまう。ですから今この場で、今の貴方の本当の気持ちを吐き出してください」
「・・・・・何・・・・言ってるのよ・・・・・私は・・・・わた・・・・し・・・・・・」
口ではどうにか否定しようとするものの、彼女も既に限界だった。

              だから、素直に従う事にした。彼の行為に

「あ・・・・・うあ・・・・・・うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!怖かった!・・・・怖かったよ!!!」
ナイトガンダムにしがみ付き、一心不乱に泣き叫ぶアリサをナイトガンダムは
時より落ち着かせるように優しく背中を叩きながら黙って受け止めた。

ナイトガンダムが忍達に連絡をしたのは、それから数分経ってからの事であった。

 

・おまけ

「落ち着いたかい?」
「うん・・・・・その・・・・・ありがとう」
「どういたしまして、それじゃ皆に無事を連絡しよう。皆も心配している」
「うん。あっ、でも携帯電話・・・・・・あいつらに・・・・・」
悔しそうに床に転がっている通学カバンを見つめるアリサ。
そこには、踏み潰されて壊されたであろう携帯電話の残骸が無残に散らばっていた。
おそらく、自分を誘拐した後に、カバンの中から見つけて真っ先に壊したんだろうと思った。
「『ケイタイデンワ』ですか?それでしたら、忍殿から連絡する時に使ってくれと渡されました」
写真を入れていた布袋から、忍から渡された携帯電話を取り出し、アリサに見せる。
「GOOD JOBよ!!それじゃあ早速連絡!」
「はい」
頷きながら返事をし、携帯電話を見据える。

10秒経過

20秒経過

30秒経過

「(どうしたんだろう・・・・)」
深刻な顔をしながら携帯電話を見つめるナイトガンダムに、
アリサは『如何したのか?』と聞こうとすると
「・・・・・・アリサ・・・・・・申し訳ありません・・・・・・」
申し訳無さそうに頭を垂れるガンダムに
「なっ・・・ど・・・どうしたの!!?」
アリサは堪らず尋ねた。すると、腹の底から搾り出す様な声で

               「『ケイタイデンワ』の使い方が・・・・・・・分かりません」

アリサは堪らずこけた。それはもう綺麗に。

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最終更新:2008年03月03日 20:26