「確かに竜は彼女に懐いていますし、命令にもある程度は従います」

「では能力に問題が?」

「イエ、電気を発生させる体内器官を有しているらしく、口から雷撃のブレスを吐きます。
 飛行能力は優れているとは言えませんが、人を少数乗せる程度ならば飛行可能。
 他にも嗅覚に優れており、匂いを使ってのターゲット探索などが……」

「では一体なにが問題だと言うんですか!?」

私 フェイト・T・ハラオウンは保護施設の責任者の言葉に苛立ちを覚えていた。
「とてもでは無いが実戦では使えない」と言われ、「扱いに困っている保護児童とその竜」を引き取ろうと訪れた施設ではまるで要領の得ない説明ばかり。
目の前で悲しそうに俯いている桃色の髪の少女の為にも、良い答えを出してあげたいのに。

「その……生理的に受け付けないと言いますか」

「はぁ?」

「倫理的問題が発生する場合もあり……」

「意味がわかりません!」

思わず私は怒鳴ってしまった。
マズイ、仕事中は常に冷静な執務官で居ようと決めていたのに。
しかし生理的に受け付けないなどと言う理由で差別などもっての他だし、倫理的な問題の発生など意味がさっぱり理解できない。

「えぇ、幾ら口で説明しても恐らく執務官殿には理解して頂けないでしょうな!」

逆に言葉を荒げる施設の責任者に私は内心でタメ息をつく。遂には逆ギレと来た。
後で「責任能力に問題あり」と言う書類を担当の人事課に送ってやろうと心に決める。

「ですから現物をお見せします。そうすれば我々の苦労もご理解いただけると思います」

確かにソレが一番手っ取り早いだろうが、どんな意味があるというのか?
主人に従い、能力的にも問題ないのだから何も気をつけなければならない点などない。
だが責任者だけではなく従う局員たちも同様の反応を取っていることが理解できなかった。

「ルシエ君、執務官殿を君の竜のところへ案内してあげなさい」

「……はい!」


外への道すがら私は問題の少女 キャロ・ル・ルシエさんとの交友を暖めた。
話してみればやはり見た目通りの優しい子、それでも資料からも理解できたこれまでの苦労により、どこか達観した風にも見える。

「それであの子を召喚したら急に村を出て行けと言われて……」

「ルシエさんはどうしてそうなったと思う?」

「う~ん、ちょっとあの子の外見が普通じゃないからかな?って今は思ってます」

なるほど……少々特異な外見はしているようだが、それだけで腫れ物を扱うようにすることもあるまい。

「フリードォ~!」

外は一面の雪景色だった。そんな中でもキャロは嬉しそうに竜の名を呼ぶ。
アルザスの民にとって竜は半身であると聞いた。その半身が原因で色々とつらい目にあうと言うのはとても苦しいことなのだろう。

「来ました~」

遠くに見えるのは雪と同化するような白い影だった。
フワフワとした飛び方だが、確かに翼がある竜のシルエット。何が問題なのだろうか?
だがそれが近づいてくると、私は徐々に顔を顰めなければならなくなった。
残念な事に施設の局員たちの苦悩を理解してしまったのだ。

「お帰り、フリード!」

キャロの声に反応して、ドスンとその巨体は地面に二本の足を付け、翼を折り畳む。
翼があり、二足歩行する典型的な竜種の特徴を持つが、他の部分が余りにも特異だった。
まずはその体表。鱗や甲殻に一切覆われておらず、白いブヨブヨとした肌はまるで芋虫か水死体のよう。
肌の下では不規則な筋肉の脈動と血管を走る鮮血が簡単に見て取れる。
体形もしっかりとした足を持つ芋虫のように細長く、その顔と呼ばれる部分には目がない。
余分なものが一切ない体の先端にはポッカリと穴のように開いた大きな口。
その中には獲物を噛み切る為ではなく、押さえつけて丸呑みにする為に細かい鋭い歯が並ぶ。
尻尾の先端には何故か小さく穴が開いており、全身運動に連動して上下に若干伸びながら動く。

「えっと……」

「この子がフリードリヒ、私の竜です」

竜? これは世間的に竜と呼んで良いのだろうか?とフェイトは思考する。
しかしキャロの様子を見てみると全くコレを竜だと、己のパートナーだと疑っていない。
きっと昔の自分ならば竜を召喚して現れたのだから竜だと信じられただろう。
私も汚れてしまったようだ……それにしても聞いていた通り、鼻が効くようだ。
尻尾同様にビヨ~ンと伸びる頭部でフガフガとキャロの匂いを嗅ぎ、擦り寄る。
口から垂れた涎がルシエさんの服に微妙な焦げ目をつけていた。かなり酸性の強い唾液のらしい。

「……って! ルシエさん、服焦げてるよ!?」

「え? あ~これくらいは何時もですよ」

どうやら彼女たちの中ではアレが極めて一般的なスキンシップのようだ。
しかし盲目の竜からは感情が感じられず、キャロを食べようとしているようにも見える。
その異形が年端もいかない少女に擦り寄る様は、「キモい」を通り越して……「エロい」。

「……「アレ」みたいだからかな? 酷く卑猥な気が……」

不愉快な事にフェイトはその異形の竜 キャロさえ知らない種名をフルフルと言う存在をとあるモノに重ねてしまっていた。
自分やアルフには無くて、義兄やユーノには存在する体の器官。
つまり……アレだ。
今ならば施設の局員が扱いかねていたのもよく解る。
能力が有ろうが無かろうが、こんな物体が活躍するのは正直管理局のイメージ戦略的によくない。
もし上に「こんなモノを貸し出すとは何事だ!」と怒られでもしたら目も当てられないだろう。
しかしキャロは竜使いであり、この不気味な生物は彼女のパートナー。
セットで無いと使えないのだが、セットでは表に出せない。中々困った存在と言うわけだ。


不意にフリードがキャロを食べたそうに見て?いた頭を上げ、私のほうへと向ける。
やはり匂いを嗅ぐ様なアクションの末、此方に歩いて来たりして……逃げたい。
ソニック的な勢いでこの場を離脱したい衝動を抑えながらも、私 フェイトは懐のバルディッシュを握り締めていた。

「えっと……はじめまして、フリード」

挨拶とかしてみたりして、有効的な雰囲気を装ってみたりしても……やっぱりイヤだな~

「フンッ」

ちょっとフリード! 今のなに!? 鼻息? それともタメ息?
すぐに私から興味を失ったようなリアクションの後に引き返し、キャロへのスリスリナデナデベトベトを再会するヘンタイな生物。

「もう! 駄目だよ、フリード!
 そんな無愛想だから施設の人たちにも評判が悪いんだから」

……愛想とかの問題じゃないと思う。つうか、この不気味竜はたぶんロリコンなのだ。
幼い子供しか食べられない(性的な意味でも食事的な意味でも)のだ。そうに違いない。
決して私はこの歳までまともな恋愛をしてなかったり、もちろんアレも未体験だったりしたのが問題ではない。
良いな~と思っていた義兄がいつの間にか姉さん女房をもらっていたりしていた事も、決して関連していない。
私が女的に魅力が無いとか経験不足だとかそう言ったことは関係していない……いないはずなのに……クソッ!

「あれ~フェイトさ~ん?」

私は思わず愛を育んでいる異種間カップルから戦略的に撤退していた。
恐らく私が感じたやるせない感情も、担当局員があの二人を煙たがる理由だろう。
……そういえばキャロを預かりに来たのだった……どうしよう?


数日後、自責の念とか敗北感とかに押しつぶされそうになった某執務官が、自室で辞職届を握り締めてプルプル震えていたりした。
それを偶然尋ねてきた教導官が見つけたりして……

「辞職届なんて、どうしたのフェイトちゃん!?」

「止めないで、なのは! あんな卑猥な生物に惑わされて可哀想な女の子一人救えない私は……
山に篭って、滝に打たれて、老山龍を一太刀で撃破できるくらいまで修行してから出直す事にしたの!」

「意味わかんないよ、それにあの大きな人は最後まで歩かないと絶対に倒れないし(ry」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年02月28日 20:00