『凄い……』

「な? 盗賊王様の勘は正しかったろ」

「キャウ~?」

初成功の召喚魔法(かなりアレンジ)の結果、掘りあがった僅かな隙間、しかしキャロの体なら充分な隙間から中に入った。
そこに広がるのは見慣れない文様で彩られた石のトンネル。等間隔で自動的に着火した松明が、この場所が人工物であると確証させた。

『あの壁画……竜魂召喚の場面かな? つまりココは……』

「アァ、相棒のご先祖様が残した場所って訳だ」

現在体を動かしているのはバクラ。何故かといえば遺跡には当然付き物である……『罠』の為。
もちろん先頭と彼等の左右を守るように首なし騎士を歩かせている。時たま飛んでくる弓矢も彼らの鎧を僅かに貫くだけ。
普通ならば鎧を貫かれたら中身の人間が負傷するのだが、彼らはまさに鎧だけ。負傷する中身など持ち合わせては居ない。
それでも避け切れなかったモノを盗賊の長年の勘で回避する。

「相棒に任せたらここまでで四回は死んでるな」

『うっ……』

「ちっとは運動能力とか反射神経とか鍛えろよ」

「キャウ~」

キャロの肩から動かないフリードに、バクラはタメ息。未だに首なし騎士が怖いのか? 小さく震えている。
その点ではキャロも同じで、「初めて成功させた召喚魔法で出てきたのが、幽霊ってイヤだな~」と思ってたりした。

「チビ竜もちっとは役に立てっての! そのうち捨てられるぞ」

「ギャッ!!」

『そんなこと私はしないからね、フリード? 安心して!』

違った振動を始めたフリードを必死にキャロが宥めていると、不意に視界が開けた。
そこは今までのような一直線の通路ではなく、開けた空間。その中央に山済みに成っているのは眩いばかりの金銀財宝。
愛らしい少女の顔を獲物を見つけた盗賊の舌なめずりが汚した。


注意深く近寄ってみると、どうやらこの部屋には罠が無い事がわかる。
目の前には見慣れない大きさと紋様の金貨、銀貨。蒼に翠、朱に白と様々な宝石。
それらをあしらった装飾品などが中央の石版と大きな皿状の物体を取り囲むように並んでいる。

「どうだい、相棒! ご先祖様の墓を荒らした気分は? 覚えるのは爽快感か? それとも嫌悪感~?
オレ様としてはテメエのお節介のつけが返せて、しばらく生きていけるなら何でも良いけどよぉ」

その品から持ち運び易く、価値が出そうなモノを袋に放り込みながらバクラは問う。
問うた本人はまさに最上の喜びと表現できる歪んだ笑顔を浮かべているので、彼の心理は実にわかり易い。

『なんでしょう……これだけのモノをあの小さな村の一族が作ったって言うのは感慨を覚えるかな?
 でも裏返せばこれだけのモノを作れる人たちも、今やあんな小さな村で……古い掟に……』

可能な限り詰め込んで袋を背負いなおしたバクラは沈黙してしまったキャロに再び聞く。

「なあ、相棒?」

『あっはい!?』

「この文字読めるか?」

『う~ん……ウチのほうの文字に似ているんでけど……
「真の…門かな? それはある場所ではない……本当の……」
なんだろう? ゴメンなさい、解らないですね』

「そうか……」

何かまだ隠し玉があることは間違いないようだが、それをワザワザあけるのは危険が伴う。
だが盗賊の本能としては全てを見ずに帰るのは余りにも勿体無い。
そんなバクラに不意にかかるアドバイスの声。

「アルザスだけじゃなくて、山二つ越えたモイラスの少数部族の言語パターンも含まれてるんだ。
 凄いな……これだけの昔にあそこまでの大きな文明が、しかもそれが召喚技術によって栄えていたなんて……」

「あん?」

『「っ!?」』

驚きで二人と一匹がそれぞれ向けた視線の先、そこに居たのは……イタチ?
小さなナップザックを器用に背負い、これまたイタチサイズの本を捲りながら、鼻息荒くキャロが読めなかった石版の文字を目で追う。

「その文字はね…
『求める者よ、ここは本当の入り口ではない。汝が知るもっとも価値あるモノを天秤へと捧げよ。真の価値を知る者に天秤は答えたまわん、世界の真実を見せん』
って読むんだ! つまり……ギャ~! 中身が出ちゃう~!!」

「なんだぁ? このイタチ」

そこまで聞いていたバクラがハッと我に変える。手に届く所にいたその細くて毛むくじゃらな獣を掴み上げる。
油断していたのか? それとも碑文に興奮していたのか解らないが、ソレは簡単に彼の主柱に納まった。

「ボクはイタチじゃなくて…『使い魔さん?』…使い魔でもないけど…「チビ竜食って良いぞ」…やめて~!!」


「ボクはユーノ・スクライア。無限書庫の室長兼考古学者ってところかな?
こういう業界の人には有名だと思ったんだけど……『遺跡でフェレットを見たらスクライア一族だと思え』って言う格言は……」

「ゴメンなさい!!」

『ケッ……』

イタチは実はフェレットだった……問題はそこではない。フェレットは人間で魔道士で、考古学の人だった! 
メガネをかけた優しそうな青年。それに色々と失礼をしたキャロは大きく頭を垂れる。
もちろんバクラは引っ込んで舌打ちを一つ。始末すれば宝を独占できるのだが、相棒がそれを許すとは思えないのが非常に悔やまれた。

「私はキャロ・ル・ルシエと言います。こっちがフリードリヒ!」

「キャウ~」

「わ~使役する竜とその独特な服、アルザスの子? 竜使いは僕も始めて会うんだけど。
場所がその血の源流みたいな場所なんて運命的だね? よろしく」

違和感なく差し出された手を握り返し、キャロはこの人がとってもいい人だと確認した。
これは前回の反省を踏まえてなので間違いないだろう。バクラも沈黙しているから安心。

「それにそのペンダント、珍しいね。アルザスのものなの? ちょっと見せてもらって良い?」

同時にキャロは理解できた。この人は好きなこと、考古学とかに関してはどこまでも子供になれる人だと。
その分日頃は大変な事も文句を言わずにやっていそうだけど……

「汚ねえ手で触るんじゃねえ!!」

「ゲホッ!!」

『ちょっとバクラさん!!』

もう少しで手が届きそうだったのだが、完全な奇襲でバクラが放った小さな拳がユーノを吹き飛ばす。
崩れ落ちたユーノだが件の知的好奇心に押されてか? 回復力が素晴らしい。すぐに起き上がり、今度は冷静に話し出した。

「人格が変わったの……ユニゾンデバイスの亜種か?」

「オレ様のことはどうでも良い! で考古学の先生様よぉ~読めるのは良いがその意味は解るのかい?」

「価値あるもの……古代アルザス文明では翡翠がもっとも珍重されていたっていう説を論文で読んだような気も……」

その言葉にバクラは手近な翡翠のブレスレッドを大皿に放り込むが変化なし。どうやら違うようだ。

「価値ある物……大事な物……大切な物か……先生様ぁ~
この遺跡を作った連中にとって大切な物ってなんだ?」

「うん、そういう訳もできるね。時代的に珍しいもので『ブドウ酒が特産だった』って言う記述もあるけど……」

「生憎持ってねえぞ、そんなもん」

『今すぐ中を拝むのは無理か?』
そんな事を考えていたバクラだが、そこで自分とユーノの大きな過ちに気がつく。
『どうして自分達はアルザスの末裔を無視して、ご先祖の話をしているのか?』と

自分の背後、自分だけが見えるその人物に問うた。

「相棒、お前の大切な物ってなんだ?」

『えっ!? え~と……昔は村の全てが大切でした。私の唯一の世界だったから……』

「村をあの皿に放り込むわけには行かねえな……他には?」

『今は……バクラさん……って言ったら怒りますか?』

予想外に答えに流石のバクラも沈黙する。恥ずかしそうに数秒、頬を掻き……怒鳴って誤魔化した。

「バカヤロウ! 千年リングで何とか成るわけねえだろうが!! ほかに!?」

涙目に成りながら、頭を抱えたキャロの次の回答。それこそがまさに答え

『ほんとに怒った~あとは……フリード! 竜使いにとって竜は半身なんです!!』

「っ!? なるほど……解ったぜ、先生」

「えっ? なんだい!?」

バクラは自信ありげに宣言すると、フリードを中央の皿に鎮座させた。
同時に音を立てて台座が後ろの石碑と共に沈み込み、壁の一部がせり上がっていく。
フリードが乗ったのは価値ある物を乗せる天秤の皿の一方であり、その重さによって沈み反対の部分が釣り上がる。
つまり古代アルザスの民にとってもっとも価値あるものとは……

「そうか……古代アルザスの大文明を支えたのは竜。
戦争で圧倒的な性能を示す兵器であり、気候すら操る神の化身ってわけか……」

感動に震えるユーノに続く形でバクラもその中へと続く。

「キレイ……」

思わず体の主導権を取り戻したキャロがそんな言葉を搾り出した。
そこはとてつもなく広い球状の空間で、自分達がその中心で透明な床に乗っている。
球の上半分に暗闇から徐々に映し出されるのは星。まさにちりばめた天に散りばめた宝石。
特徴的な星通しを繋ぎ合わせた星座が幾つも煌き、名前や逸話が立体文字で浮かび上がる。
下半分を埋め尽くすのは世界地図だろうか? 森があって山があり、川も海もある。

「これは……竜か……」

不意に透明な床に浮かぶのはデフォルメされた白い竜。勿論フリードとは比べ物にならない大きなソレは、翼を悠然と羽ばたかせている。
古代アルザス文明の世界観がそこには詰まっていた。

「この文明はまさに竜を中心にして栄えていたって事が良く解る。それに技術力……今だって最高水準の映像技術だ。
 それだけ物を導入して作られたここは……神殿、古代アルザスの民が世界を正しく認識する為に作った神殿……」

「本当にキレイ……うぅん! キレイなんて言葉じゃ表せないくらいステキです!!」

『気に入ってもらえたようで何よりだぜ! 
だが流石にこれはデカ過ぎるな? 相棒のポケットには入りそうかい?』

「ちょっと無理ですね」

『じゃあ、まあ! ここは学者の先生にお任せするか?』

再び体を動かす人格がバクラへと変わる。これは何もユーノに挨拶する為ではなく、帰りの道も安全に抜け出すため。

「学者様~オレ様たちはこれでお暇するぜ。」

「あっうん! 助かったよ、君たちのお陰でここまで簡単に来られた」

「礼は相棒とチビ竜に言いな!
それと成功報酬はキッチリ貰ってく。イヤとは言わないだろう?」

バクラが掲げて見せた財宝が詰まった袋。ソレを見てユーノは苦笑するが縦に首を振った。
自分のように学術の為に遺跡を掘るものなんて滅多にいないと言う事を彼は理解している。
そしてこの不思議なペアも色々と込み入った事情があるらしい。

「あっそうだ! 何か面白い場所を見つけたら連絡してくれないかな?」

「まっ! 一応貰って置いてやるぜ。だがよ! 盗賊が他人に獲物をくれてやる訳がねえ」

そう言えばとユーノが差し出した名刺をもぎ取ると、バクラは鼻で笑う。

「盗賊とは物騒な……ほら! 君達だけじゃどうしようもなくなった時とか、調べてほしい事とかさ!」

「ふざけろ! オレ様たちを誰だと思ってやがる!? 盗賊王バクラ様とその相棒だぜ!!
 この世界で手に入らないモノなんて何一つねえのさ!!」

バッ!と大きなものを表現するように手を広げ、バクラは高らかに宣言する。
そして『相棒』という言葉の意味を理解したキャロは心の内で思うのだ。

『もっとがんばろう』と

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最終更新:2008年05月12日 11:15